ンホノの「白人の思い出」(南アフリカ共和国)
河野 明佳 南アフリカ共和国、フリーステイト州。電気のない村での静かな夜。ろうそくの明かりの中で食事を終えた私たちに向かって、ンホノ(ソト語:おばあちゃん)がゆっくりと語りだした。 「私が昔働いていた農場の雇い主はね、そ…
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河野 明佳 南アフリカ共和国、フリーステイト州。電気のない村での静かな夜。ろうそくの明かりの中で食事を終えた私たちに向かって、ンホノ(ソト語:おばあちゃん)がゆっくりと語りだした。 「私が昔働いていた農場の雇い主はね、そ…
近藤 史 夕暮れどき、戸外から「Hodi, Hodi!(ごめんください)」と呼びかける声がする。窓からのぞくと、中庭の片隅に大柄の女性が見える。ちょっと強面で、杖を手にしていても迫力満点の姿は、隣家に住むバレリアばあちゃ…
眞城 百華 彼女はもう60代の後半くらいになるだろうか。ザフはエチオピア北部の町で3人の子の母として生きてきた。ある日娘が連れてきた私がその町に滞在している間、ザフは毎食ごはんを用意してくれ、家事を一緒にしながら語らい、…
松浦 直毅 私が、中部アフリカのガボンでバボンゴと呼ばれるピグミー系狩猟採集民の調査をはじめてから12年が過ぎた。「年男」の年に初めての調査に行って以来、ガボンへの渡航回数は15回を数え、干支が一巡してまた「年男」の年を…
桐越 仁美 「バーバ、あの人たちは泥棒じゃないよ。」 「おまえたちは全然わかっていない。あいつらはコーラナッツを狙っているんだ。」 朝食をすませ、家の前でのんびりと話をしていると、村のみんなの笑い声とともにいつもの会話が…
藤本 麻里子 「トングウェ語の民謡をあんたに教えてやったら、いくらくれるんだい?」 「1曲いくらくれるかによって、何曲教えてやるか検討するよ。」 突然の訪問者に対し、ママ・マディナは強面でそう話す。私はマハレ山塊国立公園…
服部 志帆 2003年11月から2004年9月にかけて三度目になる調査をカメルーン東部州で行っていた時の話である。三度目の調査は、博士予備論文(大学院の修士論文に値する)なるものを書き上げたあと、初めての調査だった。初め…
目黒 紀夫 わたしの場合、自分より年上の人(とくに男性)に話を聞くのは、年下や同じぐらいの年の人に話を聞くのよりも緊張する。ましてや、体つきは大柄でがっしりしていて、強面で口数も少なければ笑顔も少ない長老ともなると、緊張…
高村 伸吾 コンゴ民主共和国はリヴィングストンやスタンレーといった著名な探検家たちの冒険の舞台となった。マラリアやツェツェバエに阻まれ19世紀後半までコンゴは暗黒大陸の深奥部、まさに未踏の土地だった。探検家はこの空白地帯…
岩井 雪乃 カドゴおばさんは、50代後半の女性でムレンギじいさんの第二夫人だ。7人の子どもがいて、孫は今のところ8人いる。私が通っているタンザニア北部の村では、じいさんの世代(現在の60代以上)には複数の妻をめとることが…
八塚 春名 「オレたちサンダウェは、もともと南アフリカから来たんだ。」 「そうそう、だって、ほら、南アフリカのマンデラ元大統領は、オレらとよく似た言葉を話すだろ。」 暑い昼下がり、ピエリじいちゃんとニカノリじいちゃんのふ…
丸山 淳子 今年のカラハリは、例年にない大雨に見舞われている。砂漠と呼ばれる乾燥地域にもかかわらず、来る日も来る日も土砂降りが続き、きまって稲妻が光る。砂地にたたきつける雨音と天が割れるような雷音は、とりわけ夜に耳にする…
河野 明佳 アパルトヘイト体制下の1970年代初頭、南アフリカ。強制移住により、住んでいた場所も仕事も失い、行き場を失った人たちが、寄り集まり、発展した「不法占拠区」。ンタテ・ンコースィ(ンコースィおじさん)は、警察によ…
織田 雪世 おしゃれな女性、にはみえなかった。ネグリジェか肌着のようなものを身にまとい、そのなかの胸は重く垂れて、けだるそうなお腹に続いている。薄めの髪はクリームがかった白色で、一部をまるで思いついたかのように三つ編みに…
藤本 麻里子 「なんであんたはネックレスもピアスも指輪もしないんだい?これは女性の証なのに。」 私にそう尋ねてきたのは、60代後半か70になろうかという、調査中にお世話になっている家の主人のお母さん。名前はワンプーゲ。孫…
村尾 るみこ 「私は2005年にザンビアからアンゴラへ帰ってきた。でも当時、このあたりは地雷が多くて、撤去してもらったんだ」 アンゴラの小さな川沿いにある集落で、老人ネゴが静かに語る。私はアンゴラ紛争前後の村での生活に関…
眞城 百華 「父はまたでかけてしまいました」 話を聞くために数時間をかけてたどり着いた家で、娘さんが申し訳なさそうに父の不在を詫びてくれる。バライさんの不在はこれが最初のことではなかった。 バライさんは御年83歳だが、家…
大門 碧 推定89歳になるその女性は、8キロ近くある私の娘をかるがると持ち上げ、娘の誕生を神に感謝した。次の瞬間、彼女がかつて産んだ息子が大きくなってから亡くなったことを口にし、「神さまってのは、まったくなんてことをして…
丸山 淳子 「最近、ガイ(野雁の一種)の罠を見に行っているかい?」さよならの挨拶を済ませて、立ち去ろうとしたときだった。追いかけるように、カワマクエじいちゃんが問いかけた。さっきまで、臥せったまま「自分はもう長くない」と…
松浦 直毅 私の研究テーマのひとつは、「民族間関係」である。異なる民族同士が相手をどのようにみなしてどのように関わっているかについて、聞きとり調査や量的データの収集によって得られた情報をもとに考えてきた。その際の重要な手…