紹介: 藤本 麻里子
明石書店が出版している「エリア・スタディーズ」シリーズは、2023年11月に200巻を達成し、本書は第208巻にあたる。アフリカ大陸のほぼ中央に位置し、アルジェリアに次いでアフリカで第二の面積を有する大国、それがコンゴ民主共和国だ。独立直後の1960年から1965年にかけてのコンゴ動乱と呼ばれる混乱の時期を経て、1965年からは、32年間にもわたってモブツ大統領の独裁政権が続いた。1971年に国名がザイール共和国から現在のコンゴ民主共和国に変わったが、ザイールという国名を覚えている人もいるだろう。1994年に隣国ルワンダで発生したジェノサイドの混乱の影響を受け、1996年からは再び内戦状態となった。2002年に和平合意が結ばれ、2005年には大統領選挙、2006年には新憲法制定に関する国民投票が行われ、2000年代以降、少しずつ政治・社会情勢が安定してきた。
本書は、2人の編集者による「はじめに」と「おわりに」が付されており、50の章と10編のコラムが以下の6部構成で編まれている。
Ⅰ 自然・地理
Ⅱ 歴史
Ⅲ 文化・社会
Ⅳ 生業・経済
Ⅴ 政治・国際関係
Ⅵ 日本との関わり
本書を読めば、コンゴ民主共和国が歩んだ内戦や紛争の歴史、鉱物資源が豊富であることに起因する国家運営の難しさ、豊かな動植物相を育む広大な熱帯雨林の成り立ちと、そこに暮らす狩猟採集民ピグミーの人々の暮らし、大河川コンゴ河で繰り広げられる人や物の大移動と、その背景に広がる生業活動など、この国が持つ実に多様な側面を概観することができる。本書の全50章のうち、以下の章はアフリック・アフリカの会員が執筆している。
第30章 コンゴ中部熱帯林の生業複合―幅広く、何でもやる (山口 亮太)
第31章 熱帯林の食文化―緑のサハラからの1万年史 (安渓 貴子)
コラム7 コンゴ盆地の森の地酒を訪ねて(安渓 貴子)
第36章 森林地域と都市の市場のつながり―人の移動と商品の流通 (松浦 直毅)
第37章 鉱物資源を売って魚を買う―鉱山都市住民の経済活動 (藤本 麻里子)
紹介者自身は首都キンシャサにすら行ったことがないのだが、キンシャサに次ぐ第二の都市ルブンバシでフィールドワークを行った経験から、今回1章を書かせていただいた。コンゴ民主共和国のことをある程度知っている人にとっても、ほとんど知らない人にとっても、まだまだ知らないこの国のあらゆる姿を知ることのできる一冊となっている。コンゴ民主共和国に関わりのある人にはもちろん、同国に縁もゆかりもない人にとっても、十分楽しめる読み物になっているので、ぜひ手に取っていただければと思う。
書誌情報
・出版社: 明石書店
・定価:本体2000円+税
・発行:2024年6月30日
・出版社のサイト https://www.akashi.co.jp/book/b649894.html
商品ページ:https://amzn.to/3WDGhtK