また会う日まで――難民女性たちと月のもの対策を考える

山崎暢子

2014年にわたしは南スーダン難民が多く暮らすウガンダ北部のキャンプで、洗って再利用できる布ナプキンとその取扱説明書、肌着と石鹸を国際NGOが支給する場面に居合わせました(写真1、2、3)。多くの女性が明度の低い色の肌着を好んで選んでいます。長蛇の列の前方につけていた女性には選択肢がありますが、人気の色からなくなっていきます。列のうしろの人の順番が来るころに残っているのは、白のショーツばかりでした。「白はわたしが希望したわけではないし汚れも目だつのだから、1枚おまけにくださいな」と試しにNGO職員に頼んでみる女性もいました。これは、キャンプのなかで割り振られた居住地から井戸や水道が離れたところにあり、頻繁に水汲みへ行けない女性たちの切実な訴えでした。人口が集中する避難所での限られた水資源をめぐる問題は深刻です。飲み水のほか家庭用水を水場まで汲みに行くのはおもに女性や子どもたちで、パッドを洗って再利用する人は果たしてどれくらいの数いるのだろう、という素朴な疑問がわきました(※1)。

2013年12月の南スーダンでの内戦ぼっ発以来、ウガンダで受け入れる難民数は増加を続け、2017年には100万人、2018年には150万人を超えてサハラ以南アフリカで最多となりました。停戦後もウガンダの難民受け入れ状況は大きく変わらず、2023年時点でその受入数は160万に迫ります(※2)。2018年に再びキャンプを訪れたわたしは、難民女性数十名(61名)を対象に月経対処に関するインタビューを実施しました(※3)。このときは個別インタビューではなく、複数の女性たちのグループと車座になって話をしました。グループあたりに数時間割く話し合いを数日間、繰り返しました。避難前、避難道中、そしてウガンダに着いてからの生活について、おもに月経をめぐる体験を中心に話してもらいました。そこで明らかになってきたのは、身重の状態で南スーダンから避難し、難民登録されたウガンダで出産した人や、乳児を連れて避難していた人の多さ(15名)でした(※4)。ほとんどの人が徒歩で避難し、その道のりは3日から5日間にわたりました。これは、いかに多くの女性が身の危険にさらされながら避難していたのかを示してもいました。

一方で、避難道中に月経周期が重なった26名が当時の対応について語ってくれました。そのほとんど(24名)が、古着の端切れを使っていました(※5)。「端切れというのは…」とわたしが尋ね終わるのを前に、女性たちは前のめりになって口々にこう言いました――「小さくなった子ども服を細かくちぎってあて布がわりにしたわ」「逃げるときに引っ張り出してきた夫のズボンよ」「だって、しばらく会えないし。(彼は)当分は自宅に戻れないだろうからズボンの1本くらい、ね。新しいのをまた買えばいいのよ」と。この「新しいのをまた買えばいい」という言葉には、「生きていればいつかきっとまた会える」という願いが込められているようにも聞こえました。

女性たちに避難前の南スーダンでの使用状況について尋ねたところ、ナプキンの使用は10~20歳代を中心に広く普及していましたが、常用していた人とそうではない人がおり、30歳代以上は個人差が大きく全体として使用頻度は下がりました。学校で配られたものの利用がおもでありお金を出して買う人はあまりいなかった10代とは対照的に、購入していたのは20代が中心でした。常用しない人は、端切れを使うほか、ビニール袋を脱脂綿で挟むなどしてお手製簡易ナプキンを作っていました。南スーダンで使い捨ての紙ナプキンを使用したことのあった人が42名、ウガンダに来て初めて使った人が10名いた一方で、避難前後とも紙ナプキンを使用していない人は7名いました(※6)。ウガンダで初めて使用した人は皆、配給されたものを使用したといいます。配給分を使い切ったあとに現金を出して購入した人は、全体で1人しかいませんでした。キャンプ内にある薬局の薬剤師の話からも、店頭にある紙ナプキンを買いに来るのは難民女性ではなく、NGO職員の女性たちであることがほとんどでした(※7)。

生理用品にアクセスできていない人がいることや物資が不足していることそれ自体はたしかに課題でしょう。しかしナプキンの配給を徹底させることはキャンプ内で必ずしも万全の策ともいえなさそうです。というのも、決まったゴミ捨て場や定期的なゴミ収集がない環境で、使い捨ての生理用品が大量に破棄されると、その処理をどうするかが今度は問題になるからです。ピットラトリン(ぼっとん便所)に捨てることも、問題になります。薪やマッチなど貴重な燃料を使うのはおもに調理のときであり、そこで使用済みパッドを燃やすことは憚られます。そもそも、経血を燃やすことを忌避する文化圏の存在も指摘されています(※8)。見ず知らずの、しかも文化的背景を異にする人びとの密集する難民キャンプでの生活の「不便」を痛感する瞬間でした。一方、ナイジェリアなどの受け入れ国では2020年ごろから、裁縫教室に通ったカメルーンの難民女性が再利用可能な布パッドを作り、それを販売することによって経済自立を助ける取り組みが少数ながら試験的に始められています(※9)。近年の国際情勢悪化により世界で夥しい数の難民が生まれるなか、支援現場ではこのように試行錯誤が繰り返されています。

一日のインタビューを終えて難民キャンプ内の宿舎に戻り、たらいにはった水をコップにすくい身体にかけると、火照った首筋や腕に痛みを感じます。からだを十分に洗い流したくても蛇口から勢いよく流れ出る水はもちろんありません。しかし、日中に出会った女性たちの困難を思い返すと、わたしがいま直面している、砂と汗のまとわりつく不快感など取るに足りないことに感じられました。わたしはわずか数週間で現地を離れますが、インタビューに答えてくれた女性たちの帰還や第三国定住の見通しは不透明でした。国際的な開発アジェンダの実現はそれ自体とても意義深いものです。ただし私が重視したいのは、均質になりがちなグローバル基準を前にして、移動を強いられ急激な生活の変化を経験している人びとが、避難前の価値観や実践とどう折り合いをつけているのかという点です。とくに、難民キャンプは、国際的アジェンダに基づく人道支援が日々実践されている現場ですが、そこには文化的背景の異なる人びとが密集して過ごしています。実に多様なバックグラウンドをもつ難民女性たちはどのようにしてグローバルな衛生観を受け容れながら、新たな実践を生み出している/いないのでしょうか(※10)。このことを理解するためには、グループでの話し合いでは語りにくいことについて、個別にじっくり話を伺うことも重要になるでしょう。今後、微力ながらでも避難所の環境改善に向けて貢献していければと思います。

 

(写真1)ウガンダ北部の難民キャンプでの配給前の様子。女性たちは、直射日光を避けるために、クリアファイルやビニール袋に入れた難民登録証で順番とり、木陰で休んだりお喋りをしたりしていました。

(写真2)配給が始まったときの様子。炊事等で忙しい保護者が配給場所に来られない世帯からは、子どもがおつかいとして派遣されていました。

 

(写真3)難民キャンプで配給されていた布ナプキンの取り扱い説明書。

いずれも2014年8月12日筆者撮影

脚注

※1)当時の私の調査主題が別のところにあったため、この問題を掘り下げることになるのはもう少し先になってからのことでした。当時は、難民と受け入れ地域の住民のあいだの社会関係に関する調査を実施しており、難民キャンプとその周辺農村で、日用品・食料の配給現場の全体像や、学校・市場・水汲み場など難民と地域住民の対面機会について把握することに重点を置いていました。本エッセイは、2018年3月に実施したゼミ発表がもとになっています。遅くなってしまいましたが、コメントくださった方々にこの場を借りてお礼申し上げます。

※2)UNCHR. 2024. Uganda Comprehensive: Refugee Response Portal. <https://data.unhcr.org/en/country/uga> (最終閲覧2024年6月1日)

※3)2018年2月時点のウガンダの難民受け入れ人口は144万人、このうちわたしが訪問したキャンプに暮らす登録された難民総人口が12万7,084人(うち難民女性の人口は64,331人)でした(UNHCR, 2017; 2018)。ウガンダで難民受け入れを管轄している首相府(Office of the Prime Minister)で入手した資料(UNHCR Arua Sub Office, 2017 December 31)によると、同キャンプが位置するウガンダ北西部テレグ郡(2018年当時。現在はテレグ県)の総人口は15万6,404人(うち女性が80,105人、男性が76,299人)、とくにA準郡Cパリッシュの総人口が16,767人でした。同様の資料は以下でも参照が可能です。UNHCR. 2018. Uganda Refugee Response Monitoring Settlement Fact Sheet: Imvepi (January 2018) <https://reliefweb.int/report/uganda/uganda-refugee-response-monitoring-settlement-fact-sheet-imvepi-january-2018?lang=ru>

※4)このうち3名は、初産となる第1子を妊娠中でした。

※5)端切れを使用していない2人のうち1人は下着を2枚重ねにしていた、もう1人は人影の少ない水場で洗った、という回答でした。

※6)2名については使い捨て紙ナプキンの利用について不明。サンプル数が少ないため単純比較はできませんが、南スーダンからの難民女性のほとんどが使い捨ての紙ナプキンを利用できていない状況はウガンダ各地でひろく共通していたと推測されます。これは、シリアからの難民の多数(7割以上)が避難先のトルコでも使い捨てナプキンを利用できていた状況とは対照的です(UNFPA, 2022)。なお、ウガンダにおいてナプキンの配給が政治問題化した点については以下の図書で解説されています(新本万里子・杉田映理編. 2022.『月経の人類学: 女子生徒の「生理」と開発支援』世界思想社)。UNFPA (United Nations Population Fund). 2022. Menstrual Hygiene Management among Refugee Women and Girls in Türkiye. Sverige: UNFPA.

※7)配給に話が及ぶと、明確な配給日が事前に分からず、逃した機会は少なくないと考えている女性たちがいることもわかりました。配給時に受け取れなかった理由として、配給時に妊娠しておりナプキンは不要だとみなされ支援対象から除外された、自分が対象者だと知らなかった、配給日を知らなかった、などが挙げられました。ケニアの難民居住地からの報告では、NGO主催のワークショップなどに参加して裨益者となる女性がいる一方で、どんな支援物資が支給されているのか自体を把握していなかったり、自身が受給対象になることを知らずにいる人もおり、ある種の格差が難民女性のあいだに生じていることが指摘されています(Horst, 2007)。Horst(2007)の報告は生理用ナプキンについてではありませんが、同様の現象は難民居住地での様々な支援について共通しうる重要な点といえます。Horst, Cindy. 2007. Transnational Nomads: How Somalis Cope with Refugee Life in the Dadaab Camps of Kenya. New York: Berghahn Books.

※8)杉田映理. 2011.「エミックな視点から見るトイレの問題――現地社会の内側からの理解とは」『開発援助と人類学: 冷戦・蜜月・パートナーシップ』明石書店, 106–127.

※9)UNHCRとセーブ・ザ・チルドレン・インターナショナルが、欧州連合の人道支援資金を受けたプロジェクトによって実施しているもので、これがひいてはジェンダーに基づく暴力に遭遇するリスクを減らすことにも貢献することが目指されています。UNHCR. 2023 (Feb.9). UNHCR Seeks to Increase Menstrual Health and Hygiene for Cameroonian Refugees, One Sanitary Pad at A Time. <https://www.unhcr.org/ng/15211-unhcr-seeks-to-increase-menstrual-health-and-hygiene-for-cameroonian-refugees-one-sanitary-pad-at-a-time.html> (最終閲覧2024年5月20日)

※10)月経は、世界各地の多くの女性が経験する生理現象のひとつですが、その経験のされかたは個人が置かれている社会や環境に大きな影響を受けることが指摘されています(Hawkey et al. 2017)。