高橋 明穂
私のステイ先の女性はみんな商売をしていた。一番上のお母さん(第一夫人)は、毎日のように近くの市場で野菜や魚を仕入れに行き、村の小売店で販売していた。二番目のお母さん(第二夫人)は朝と夜にサンドイッチ屋をしていた。また、同じ敷地に住む親せきのおばさんも、隣町の役所に勤める傍らで自家製アイスを売っていた。
私は、セネガルにおける水産物利用についての調査のため、首都ダカールより南にあるこの漁村にやってきた。私はセネガル漁村に滞在している間、朝と夕方は調査のために浜に通っていた。それ以外の時間は、ほとんどを家で過ごしていたから、自然と彼女たちの商売の場にいることが多くなった。特に、おばさんのアイス売りを手伝うことが多かった。というのも、おばさんは昼間に隣町へ仕事に行ってしまうので、アイスの販売が日中はできない。しかし、アイスがよく売れるのは日中太陽が出ている間である。だから、おばさんはアイス売りの仕事をお手伝いさんにお願いしていく。しかし、お手伝いさんは彼女自身の仕事もあるし、なにより昼寝をよくする。そういうとき、お手伝いさんは暇そうな私にアイスの番を頼む。そうして、私は一つ50cfa(約12円)のアイスを売る冷凍庫の番をすることになった。
セネガルのアイスは、小さなビニール袋に入っており、甘いジュースを凍らせたシャリシャリとした食感のものだ。うちの家では2種類のアイスを作っていて、一つは一番上のお母さんが管理するビサップ(ハイビスカス)やブイ(バオバブ)のシロップを凍らせたアイスで、もう一つはヨーグルトやミルクにバニラエッセンスやブイなどを混ぜて凍らせたおばさんのアイスだ。おばさんのアイスは特に子どもたちに大人気で、昼食後、15時くらいになると小銭を握りしめてたくさんの子どもが買いに来る。私は16時くらいから調査に行くので、だいたい昼過ぎから調査に行くまでの時間、代わりにアイス屋さんの番をする。この昼の仕事を代わりにすると、お手伝いさんがアイスをくれるからうれしい。セネガルの乾いた暑さと調査中に浴びる太陽の日差しで、くたびれた体にはもってこいの癒しである。
夕食後、調査で思いのほか疲れてしまったので、外の椅子でウトウト、もうそろそろ寝ようかと考えていた時だった。おばさんが「アミナ(私の現地名)、この袋をこうやって全部開けてね」と、ビニール袋の束を私に渡してきた。口が閉じた小さいビニール袋の束を、一枚ずつばらばらにして、口を開ける作業だ。返事をする前におばさんは自分の部屋に戻ってしまったので、作業を始めるしかなかった。もう夜で手元も暗くてよく見えなかったが、この手の作業は日本にいるときのアルバイトで慣れていたので、あっという間に終わってしまった。何に使うビニール袋なのかわからなかったが、とりあえず作業が終わったのでおばさんのところに持っていく。おばさんは旦那さんと並んでソファに座り、テレビを見ながら、私が開けたのと同じ大きさのビニール袋に、甘いにおいの白い液体を器用に注いで、袋の口を閉じているところだった。見なれた大きさ、形、色。あのアイスをつくっているのだ。作業が終わったことを告げると、「あら、もう終わったの。早いね。全部できた?」と言いながら、私が開いたビニール袋を確認する。確認しながら、新しい袋の束を指さして、「これも同じようやって」とおばさんは私に言う。私は疲れていたし、もう寝たいという意味を込めて、「えー、全部?」というと、構うことなく「全部、今やって」と言われた。「寝たいのに。でも今すぐに全部やるよ。仕事全部やったら、明日からアイス3つ頂戴ね。朝ごはん、昼ご飯、夜ご飯食べ終わったら、食べるんだ。」と私は返した。するとおばさんはクスクスと笑い出して、「3つは多すぎだよ、やらないよ」という。私は「それなら仕事しないよ、でも明日と明後日、明々後日アイス1つずつくれるなら今やってもいい」という。おばさんはニヤリとして「いいよ、明日からアイス1つね。さ、行って仕事をして!アミナはセネガル人みたいだ!」というと、旦那さんと大笑いし始めた。私も嬉しくなって一緒に笑った。