女性はいつでもオシャレじゃなきゃ(タンザニア)

藤本 麻里子

「なんであんたはネックレスもピアスも指輪もしないんだい?これは女性の証なのに。」

私にそう尋ねてきたのは、60代後半か70になろうかという、調査中にお世話になっている家の主人のお母さん。名前はワンプーゲ。孫たちも、嫁たちもみんな気安くワンプーゲと名前で呼んでいる、とても気さくなお婆ちゃん。お婆ちゃんと言っても、力仕事はバリバリこなし、薪割り、水汲み、畑仕事にダガー※の運搬、何でもてきぱきこなしてしまう働き者だ。早朝から鋤や鍬を携えて隣村の畑まで歩いて行き、日が沈んでから頭に薪をたくさん乗せて帰ってくる。ワンプーゲは、本来は息子が住む村とは別の村に住んでいるのだけど、畑仕事の繁忙期になると、仕事手としてタンガニイカ湖をボートで移動して息子の住む村にやってくる。

タンガニイカ湖畔の村でフィールドワークするときは、とにかく動きやすさが一番、ということで私は着古したラフな服装で動き回る。当然、ネックレス、ブレスレット、指輪などは邪魔になるので一切身に着けないし、化粧もしていない。それがワンプーゲには不満らしい。女性というのはいくつであっても、またどんな状況であってもオシャレを忘れてはいけないとワンプーゲは言う。実際、ワンプーゲはいつでもビーズ性や金属製のネックレス、ブレスレットなどを身に着けている。湖で天日干しされたダガーを砂にまみれながらかき集め、家まで運ぶような時でも。そんな日ごろのオシャレはもちろん、孫の結婚式ともなればワンプーゲはティーンエイジャーの孫たちとおそろいのワンピースを何着も仕立てて、孫たちと一緒にお色直しまで楽しむ。それがまたよく似合うのだ。着るものだけでなく、眉墨や口紅があるときはそれを塗ってお化粧を楽しむこともある。だから、私が日焼け止めクリームだけ塗りたくって、着古したラフな格好で毎日過ごしているのが気に食わないらしい。 なんでお化粧しないの?なんでアクセサリーをつけないの?なんでズボンなんか履くの?男みたいじゃない、と。

湖畔で干したダガーを回収するワンプーゲ

孫の結婚式でお揃いのワンピースに身を包む 一番右がワンプーゲ

日本では一応身なりには気を使い、最低限のお化粧はするし、TPOに合わせてネックレスや指輪だって身に着ける。でも、タンザニアという遠い異国の地で、またタンガニイカ湖畔の農村部で、それらアクセサリーは失くしてしまうかもしれないし、動くのに邪魔になるし、必要ではないと思っていた。ところが、アクセサリーをつけていないだけならまだしも、タンザニア農村部ではズボンを履くのは男性に限られているし、逆に言えばズボンを履いていれば男だと思われてしまう。村人から「あんたは男なのかい?女なのかい?」と尋ねられたときにはびっくりしたし、そう尋ねた理由がズボンを履いているからだと言われたときは驚いた。そんな経験から、タンザニア農村部でズボンを履いていては、それだけで男と思われるということは学習したので、最近はできるだけスカートを身に着けている。でもワンプーゲに言わせればそれだけでは足りないらしく、今度はネックレスやブレスレットやピアスこそが女性の証なのだという。日本では男性だってピアスやネックレスをするし、女性だってズボンを履くのだと言ってみたところで、ワンプーゲは納得しない。 タンザニアでは1歳未満の赤ん坊や、2,3歳の女の子も親がピアスやブレスレットを身に着けさせている。それらをつけていないと男の子と思われると母親たちは言う。それを引き合いに出して、アクセサリーの重要性をこんこんと説かれた。以来、タンザニアでのフィールドワーク中にもスカートやワンピースを着るだけでなく、現地で購入したブレスレットやネックレスを身につけるようにしてみた。すると、オシャレに敏感な女性たちは皆必ず「あら、いいネックレスね」とか「素敵な色のブレスレットね」と褒めてくれる。褒めてくれるのはいいのだけど、必ず「それ私にちょうだい」とねだられてしまうのでちょっと面倒なのだ。でも、アクセサリー一つでそうして女性たちとの会話もさらに弾むようになった。地域や時代を問わず、オシャレは女性の証なのだと、ワンプーゲとのやりとりで改めて実感することになった。

※ダガー:タンガニイカ湖で取れる小魚で、天日干しにして各地に出荷される。詳しくは別のアフリカ便り『たかがダガーされどダガー』をご覧ください。

女性はいつでもオシャレじゃなきゃ(タンザニア)

藤本 麻里子

 「なんであんたはネックレスもピアスも指輪もしないんだい?これは女性の証なのに。」
私にそう尋ねてきたのは、60代後半か70になろうかという、調査中にお世話になっている家の主人のお母さん。名前はワンプーゲ。孫たちも、嫁たちもみんな気安くワンプーゲと名前で呼んでいる、とても気さくなお婆ちゃん。お婆ちゃんと言っても、力仕事はバリバリこなし、薪割り、水汲み、畑仕事にダガー※の運搬、何でもてきぱきこなしてしまう働き者だ。早朝から鋤や鍬を携えて隣村の畑まで歩いて行き、日が沈んでから頭に薪をたくさん乗せて帰ってくる。ワンプーゲは、本来は息子が住む村とは別の村に住んでいるのだけど、畑仕事の繁忙期になると、仕事手としてタンガニイカ湖をボートで移動して息子の住む村にやってくる。

タンガニイカ湖畔の村でフィールドワークするときは、とにかく動きやすさが一番、ということで私は着古したラフな服装で動き回る。当然、ネックレス、ブレスレット、指輪などは邪魔になるので一切身に着けないし、化粧もしていない。それがワンプーゲには不満らしい。女性というのはいくつであっても、またどんな状況であってもオシャレを忘れてはいけないとワンプーゲは言う。実際、ワンプーゲはいつでもビーズ性や金属製のネックレス、ブレスレットなどを身に着けている。湖で天日干しされたダガーを砂にまみれながらかき集め、家まで運ぶような時でも。そんな日ごろのオシャレはもちろん、孫の結婚式ともなればワンプーゲはティーンエイジャーの孫たちとおそろいのワンピースを何着も仕立てて、孫たちと一緒にお色直しまで楽しむ。それがまたよく似合うのだ。着るものだけでなく、眉墨や口紅があるときはそれを塗ってお化粧を楽しむこともある。だから、私が日焼け止めクリームだけ塗りたくって、着古したラフな格好で毎日過ごしているのが気に食わないらしい。 なんでお化粧しないの?なんでアクセサリーをつけないの?なんでズボンなんか履くの?男みたいじゃない、と。

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湖畔で干したダガーを回収するワンプーゲ

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孫の結婚式でお揃いのワンピースに身を包む 一番右がワンプーゲ

日本では一応身なりには気を使い、最低限のお化粧はするし、TPOに合わせてネックレスや指輪だって身に着ける。でも、タンザニアという遠い異国の地で、またタンガニイカ湖畔の農村部で、それらアクセサリーは失くしてしまうかもしれないし、動くのに邪魔になるし、必要ではないと思っていた。ところが、アクセサリーをつけていないだけならまだしも、タンザニア農村部ではズボンを履くのは男性に限られているし、逆に言えばズボンを履いていれば男だと思われてしまう。村人から「あんたは男なのかい?女なのかい?」と尋ねられたときにはびっくりしたし、そう尋ねた理由がズボンを履いているからだと言われたときは驚いた。そんな経験から、タンザニア農村部でズボンを履いていては、それだけで男と思われるということは学習したので、最近はできるだけスカートを身に着けている。でもワンプーゲに言わせればそれだけでは足りないらしく、今度はネックレスやブレスレットやピアスこそが女性の証なのだという。日本では男性だってピアスやネックレスをするし、女性だってズボンを履くのだと言ってみたところで、ワンプーゲは納得しない。 タンザニアでは1歳未満の赤ん坊や、2,3歳の女の子も親がピアスやブレスレットを身に着けさせている。それらをつけていないと男の子と思われると母親たちは言う。それを引き合いに出して、アクセサリーの重要性をこんこんと説かれた。以来、タンザニアでのフィールドワーク中にもスカートやワンピースを着るだけでなく、現地で購入したブレスレットやネックレスを身につけるようにしてみた。すると、オシャレに敏感な女性たちは皆必ず「あら、いいネックレスね」とか「素敵な色のブレスレットね」と褒めてくれる。褒めてくれるのはいいのだけど、必ず「それ私にちょうだい」とねだられてしまうのでちょっと面倒なのだ。でも、アクセサリー一つでそうして女性たちとの会話もさらに弾むようになった。地域や時代を問わず、オシャレは女性の証なのだと、ワンプーゲとのやりとりで改めて実感することになった。

※ダガー:タンガニイカ湖で取れる小魚で、天日干しにして各地に出荷される。詳しくは別のアフリカ便り『たかがダガーされどダガー』をご覧ください。