コーヒーの収穫と子どもたち(タンザニア)

黒崎 龍悟

タンザニアはキリマンジャロの名で知られるように、コーヒーの産地で有名だが、世界的に見ればコーヒー生産のシェアは、ブラジルが圧倒している。ブラジルには機械化されている大農園もあるようで、コーヒーの実(コーヒー・チェリーと呼ばれる)を収穫するにも専用の機械が使われるという。一方、世帯単位の小農経営が基本のタンザニアでは、コーヒーはずっと手摘みで収穫されてきた。ここでは、タンザニアの南部高地(※)のコーヒー産地の様子を紹介したい。

乾季もなかばになると、コーヒーの緑色の実は、だんだんと熟していき、コーヒー・チェリーの名のとおり、サクランボのような赤い色に変わっていく。一斉に熟すわけではないので、熟した樹から収穫を始めていく。一粒一粒を指で摘み取り、手のひらの中にたまってくると近くに置いたバケツに移していく。コーヒーは貴重な収入源であるので、この時期、村内は活気づく。収穫作業は小さい子どもから老人まで一家総出の重要なイベントとなる。

コーヒーの実を摘むおばあさん

収穫時期を逃すとコーヒーの質が落ちて、高値で取引できなくなるので、村の人びとはここに神経を注ぐ。そのため、世帯単位の小農経営とはいったものの、この時期は収穫のタイミングを逃さないようにと、世帯間で労働力がよく移動する。まず良くあるのが互助労働で、収穫の手伝いに来てもらう代わりに、後日、来てもらった人のコーヒー園に手伝いに行く、というやり方。そして、同じくらい良く見られるのがアルバイトだ。

20リットルのバケツがアルバイト代の単位になっていて、手摘みの技術に長けている人は、一日に何杯分もの実を摘んで結構な額を稼いでいるようだ。私も挑戦したことがあるが、あまりにもまわりの人びとよりもペースが遅いのに恥じ入ってすぐにやめてしまった。こうしたアルバイトの担い手は、老若男女さまざまだが、とりわけ印象に残っているのが、子どもたちのフットワークだ。家での手伝いももちろんするが、目ざとく他の家の畑を渡り歩き、摘み取りのアルバイトをする。小さい手では、手のひらにためられるコーヒーの実の量は限られて、それほど効率よく作業できるはずではないが、収穫期のコーヒー園で彼らの存在は際立っている。それはここの地域のコーヒー樹の仕立て方と関係している。

南部高地の一部では、コーヒーは樹を上に伸ばしていく栽培方法なので、年代物のコーヒー樹は、かなり樹高がある。上の方につく実を摘み取るには、はしごや、はしご代わりの椅子が必要となり、少し手間がかかる。

椅子の上にのって実を摘む

身軽な子どもがいる家では、そうした子どもが樹の上の方に上っていき、丈夫な枝に足をのせ、なかばしがみつくような態勢で大人の背の届かない位置の実を取っていく。上の方を子どもが、下の方を大人が、というように収穫する部分を分担しながら、熟した実を次々と摘んでいくのである。子どもたちは、彼らのこうした利点を活かしながら、コーヒー摘みのアルバイトをとおしてそこそこの小遣いを稼ぐ機会を得ているようだ。

乾季は伝統的なダンスの交流大会のようなお祭りが村々で開かれ、食べ物や日用品、おもちゃなどを売る屋台も多く並ぶ。コーヒー園を渡り歩く子どもたちは、コーヒーをせっせと摘み取りながら、そんなお祭りのことを考えているのかもしれない。

※キリマンジャロが位置するのは北部高地。現在では、南部高地がのタンザニアのコーヒー生産の主翼となっている。