おしゃれ布マスクの目的は?:新型コロナを生きるアフリカの人びと

岩井雪乃

タンザニアは、新型コロナに対して、ロックダウンなどの厳しい制限は取っていません。手洗いや屋内でのマスク着用は奨励しているものの、経済活動を優先する方針で、いわば、アフリカのスウェーデンのような独自路線の国です。6月8日には、マグフリ大統領は早くも「コロナフリー宣言」を出しています。ただ、5月はじめに感染者累計509名、死亡者21名が発表されて以降、感染者のデータが発表されていません。私は「本当に大丈夫なのか?」とハラハラしながら、時々、現地の友人とメッセージや電話でやり取りをしています。ここでは、現地から送ってもらった写真とともに、4人の友人の近況を紹介しましょう。

コロナ前と見た目はあまり変わらないアルーシャ町。少なくとも屋外でマスクをつけている人はいないようだ。しかし、観光拠点の町なので、経済構造はガラリと変わっているはず(2020年7月はじめ、ボニ提供)

隣国では密なバイクタクシーは禁止されているが、タンザニアは大丈夫(7月はじめ、ボニ撮影)

マベンガのおしゃれマスク

私が東京の自宅でステイホームしていた5月半ば、タンザニアのマベンガから写真が送られてきました。(マベンガは、アフリックの支援でダルエスサーム大学を卒業した、村の期待の星の若者です)

緑と黄色の明るいマスク、ポロシャツと帽子も同じ色でコーディネートされていて、彼の黒い肌によく似合ってかっこいい!
「さすがアフリカの人のセンスはおしゃれよね〜、トータルコーディネートか〜」
惚れぼれして眺めていると、おや?ポロシャツの胸に模様がある。よく見ると、鍬とハンマーのロゴマーク。これは、タンザニア政権与党の革命党(CCM)のシャツじゃないか!

タンザニアは、10月に5年に1度の国政選挙を控えています。マベンガは、CCMの熱心な支持者なのです。コロナ禍でのマスク着用義務を選挙キャンペーンに活用したのでした。さすが抜かりないマベンガ、頼もしい。コロナに負けずに、着々と選挙準備を進めているそうです。

大打撃のサファリドライバー

ボニは、私がタンザニアに行くと、いつも運転をお願いしているサファリドライバーです。英語が上手で、安全運転、動物を見つける能力もピカイチ、よく気がきくし、ユーモアのセンスはあるし、ひっぱりだこのドライバーでした。何ヶ月も前から予約しておかないと、他のお客さんに取られてしまう人気ぶりでした。

悲しく停車したままのボニのサファリカー

そんなボニも、コロナが世界中に広がった4月になってからは、観光客が来なくなって、仕事が完全になくなってしまいました。運の悪いことに、ちょうど今年1月に車の大改造が終わって、新品同様にキレイになったところでした。「これからこの車でガンガン稼ぐぞ!」という矢先にこの状態です・・・ピカピカの車は、悲しそうに家のパーキングに停まったままです。

ステイホームで子どもの宿題を見てあげるボニ

でも、ボニの子どもたちにとっては、うれしいことかもしれません。いつも、ほとんど家にいないお父さんが、ずっと家にいるのです。学校が休校だった6月までは(タンザニア政府は学校を6月までは全国休校にしていた)、子どもたちにはたくさんの宿題が出ていました。ボニは、毎日宿題を見てあげて、これまでにない、家族との密な時間を過ごしています。

コロナ対策は手洗いから

ボニは、きちんと感染予防の対策をしています。家族の手洗いを徹底できるように、庭に蛇口つきバケツを設置しました。これなら、流水でしっかり手を洗うことができます。(タンザニアのほとんどの家庭は、費用が高額なため、水道を引いたり蛇口やシンクを設置することができない。バケツに汲み置きした水を使う。それでは、確実に手をきれいにできないので、コロナ流行後は蛇口つきバケツが推奨されている)

ボニは、完全に収入が途絶えてしまっています。今は貯金で凌いでいますが、観光客が戻るには、まだ時間がかかりそうです。何か新しいビジネスを始めなければ、家族を養えません。まずは、家の片隅でキオスクを始めることを考えています。

セレンゲティの農民は変わらず

「アフリカゾウと生きるプロジェクト」の活動地のママに電話で様子を聞くと、農村部の生活は、今のところ大きな影響は受けていないようです。
「今までどおり握手してあいさつしているわよ。変化と言えば、学校が休みになっていることかしらね。それより、雨が降り過ぎる方が困るわ。キャッサバイモまで腐ってしまったわ。これから食べるものが足りるかしら・・・」
と、すぐに天気と作柄の話になってしまいました。もともと村の生活は、とれた作物に依存しているので、雨が降るか、作物が育つか、害獣のゾウに荒らされないか、といったことのほうが、コロナ感染の心配よりも重要な関心事なのです。作物がとれないことには、生きていけませんから。

NGOのダミアンはステイホーム

ゾウプロジェクトの現地パートナーNGOのダミアンは、なるべくステイホームで過ごしています。おそらく、タンザニア人ではかなり珍しいパターンではないでしょうか。ボニのように仕事がなくなっで出かける必要がないわけでもないのに、ステイホームするとは。実は、ダミアンは、糖尿病の持病を患っていて、コロナ前から食べるものや睡眠時間にうるさく、体調管理に気をつける人だったのです。今は、コロナ対策をしっかりとってステイホームしているわけです。私としては、ゾウはコロナに関係なく村にやってくるので、ゾウプロジェクトを進めるために村の現場に行ってほしい気持ちもあるのですが・・・この状況では仕方がありません。私はもともと日本からのテレワークでしたが、ダミアンもテレワークになってしまいました(笑)。電話を駆使して村の追い払い隊と連絡を取って、がんばっていきたいと思います。

以上のように、タンザニアという一つの国でも、新型コロナの中で人びとがおかれている状況やその対応はさまざまです。その一端をお伝えしました。隣国ケニアでは感染者が増えていますので、タンザニアもこの先が心配です。みんなしっかり手洗いして、予防に努めてほしいです。

そして、かれらは日本のことを心配してくれて、「大丈夫か?」とよく連絡をくれます。かれらから見れば、日本の方がよっぽど危険な場所ですよね。私もしっかり染さず/染されずを実行していきたいと思います。