調理場でのおしゃべり -「食べる」

浅田 静香

食べることが旅先での楽しみのひとつという人は、きっと珍しくないだろう。わたしも食事がウガンダでの調査中の最大の楽しみだった。ウガンダ人の家庭で初めてごちそうになった食事がこちらの写真。

蒸したバナナに、ラッカセイのソースをかけたものである。初めて見るラッカセイソースの紫色は衝撃的だったが、おそるおそる口にしてみると、サツマイモのような食感に、ほんのりバナナの香りがするバナナと、塩とタマネギ、カレー粉で味付けされたラッカセイソースの組み合わせが絶妙で、お気に入りのメニューのひとつになった。

ウガンダ人の家庭に滞在して1か月ほど経ったころ、夕食についてわたしはある疑問を持つようになっていた。それは夕食の時間がとても遅いこと。19時台になることはまずなく、20時に出してもらえたら早い方で、21時ごろになることも珍しくなかった。当時、わたしは夕方16時ごろに帰宅する生活を送っていたが、帰宅して母屋の裏手にある調理場を覗くと、住み込みで働いていた家政婦が調理に勤しんでおり、湯気を挙げた鍋がコンロにかけられていた。そしたらもう今日は夕食が早いのかと思ったら、その日の夕食も20時すぎ。日本では早い時間帯に夕食を済ませ、就寝前2~3時間は食べない生活を送っていたわたしにとって、もう寝たい時間帯の食事は胃に負担を感じるものだった。

滞在先は首都カンパラで、ある程度まとまった現金所得のある家庭で、母屋のなかにはシンクやLPGガスコンロもあったが、普段の食事は母屋の裏の屋外で調理されていることが多かった。夕方、時間を持て余すようになっていたわたしは、調理場に座って家政婦や門番とおしゃべりすることが増えた。現地語を勉強中だったわたしは、家政婦や門番に教えてもらいながら、トマトやタマネギなど日本にもある食材から現地語を覚えていった。地べたなどにコンロを置いて、近くに御座を敷き、その上に食材を置いたりするローカルな調理場では、煮炊きをしながら座っておしゃべりしても昼寝をしてもいいのだそう。

母屋の裏で調理する家政婦

そうして調理場での滞在時間が長くなると、この家庭では調理時間が長いのが決して珍しくないこと、それを可能とする社会的・文化的背景がたくさんあることがみえてきた。火元から常に目を離せないガスではなく、コトコトと煮炊きが可能な木炭が普段の燃料であること、バナナやソース、コメ、ポショ(トウモロコシ粉の固粥)など比較的時間がかかる蒸し料理が多く調理されていること、立ちっぱなしではなく座って調理していること、等々。

当初、ローカルなゴミの処理方法など廃棄物処理について調査をしにウガンダへ来ていたわたしは、その後、有機性廃棄物から作られた調理用燃料を中心的なトピックとして研究を進めることになる。燃料の使用方法を観察するため、調理観察をする日もあった。食いしん坊が転じて、調理場で調査をさせてもらうことになったのは、夕方の調理場でおしゃべりした時間がきっかけだったのかもしれない。