きたないものに価値がつくとき

浅田 静香

2012年、私が初めて調査のためにウガンダに降り立ったとき、漠然と「地域固有のごみの捨てられ方や利活用」について調査したいと思っていた。かと言って具体的な目星があったわけではなく(いま思えばもっと事前に勉強しておくべきだったと思うが…)、最初に取り組んだのは、どこに何が捨てられているか、滞在先の周辺を歩き回って調べることだった。GPSロガーとカメラ、フィールドノートにペンを持って、助手と滞在先の地区のすべての道を歩き回って、ごみ捨て場の位置情報、ごみの内容物、大きさを記録して回った。

住宅地の庭先に捨てられた一般ごみ

数日間かけてごみ捨て場を観察、記録していくうちに、この地域では庭先や道路の脇、空き地などにごみが捨てられること、その多くは単に放置されるか、火をつけて低温焼却処理されていることがみえてきた。内容は、生ごみやプラスチック包装、紙、灰、落ち葉をはじめ、壊れたサンダル、紙オムツ、ペットボトル、空きビン、電球…など、どれも混ぜられて捨てられていた。とくにバナナやキャッサバ、ジャガイモ、パイナップルやジャックフルーツの皮などの生ごみが多く、ニワトリやヤギがつついていた。果物など水分量を多く含むごみが多い場所、または用水路や水たまりなど水の多い場所にごみが捨てられていると、あの特有の臭いを発し、大量のハエが群がっていた。調査中に鼻や目をつい覆ってしまったことも少なくない。

ごみ捨て場を廻りながら、助手や居候先の人びとに、ごみの処理方法について尋ねると、調査中に見た低温焼却や空き地への放置に加えて、穴を掘って捨てたり、家畜の飼料にしたり、金属やペットボトルはリサイクルに回したりしていること答えが返ってきた。そんななか、ステイ先のメイドさんに「最近、バナナとかの皮から炭を作ってるらしいよ」と教えられた。リサイクルやコンポスト、家畜の飼料化は調査前から見聞きしていたことだったが、生ごみが燃料になるのか?!と驚いた。
その数か月後、別の地域で調査をしているときに、ついにそのバナナの皮燃料に遭遇した。こぶし大の黒いものが住宅地の庭先に広げられていて、最初は何だかわからなかったほど、住宅地のごみ捨て場で臭いを発している生ごみから作られているように見えなかった。その燃料はブリケットと呼ばれ、木炭の代わりに調理時の燃料として使われる。材料にはバナナの皮だけでなく、キャッサバやジャガイモ、トウモロコシの穂軸、サトウキビの皮など、都市由来のあらゆる作物の皮や残渣が使用される。その後、私はこの「黒だんご」のを自身の研究対象の中心に置いて、ウガンダでの現地調査に取り組むことになった。

初めて調査をさせてもらったインフォーマントが作る「黒だんご」ことブリケット。両脇に散らばっているごみの一部がじきに材料として使われる。

ブリケットは、材料となるバナナなどの皮を天日で乾燥させ、その材料を不完全燃焼させて炭化し、つなぎと混ぜ合わせて丸めて、再度天日で乾燥させて作られる。一般家庭や飲食店などから集められてきた生ごみは、最初はあの特有の臭いを発していて、広げるとハエも群がるが、乾燥すると臭いが取れ、ハエも群がらなくなる。炭化してしまえば、もともと生ごみだったことを忘れるほどだ。

ブリケットを作るために、家庭レベルで少量ずつ生ごみを乾燥させるのは問題ないが、生産規模が大きくなると、生ごみを「乾燥」させているのか「捨てて」いるのか傍目にはわからず、作る側が説明を求められることがあった。ある天気の良い日、1日に50kgほどのブリケットを作る人たちのところで調査していると、かれらが乾燥させている生ごみを見つけた市役所の役人が通りがかり、「こんな量のサトウキビの皮をこんなところに置いているのは不衛生なので処分するように」と指導された。生産管理長のムゼーが役人に経緯を説明すると、役人は納得して帰っていった。このサトウキビの皮は前日の夕方に広げたばかりで、まだ湿っていたからか、役人が「きたない」と感じたのだろう。そんなごみでも、乾燥すると臭いも消え、ブリケットになってしまえば、燃料としての価値がつく。

乾燥したサトウキビの皮

ブリケットはごみの再利用という役割だけでなく、不足と価格高騰が深刻化する木炭の代替品としての役割も期待されている。台所や家庭では「きたないもの」だったり「不要なもの」であっても、乾燥や炭化のプロセスを経て、燃料として新たな価値が付けられていく。