自分で産めるよ (タンザニア)

岩井 雪乃

「ユキノ、ほら、私の赤ちゃんよ。今回は、家で産んだわ」

ここ数年、毎年夏にタンザニアの村を訪れるのが恒例になっている。村でいつも滞在するニャムコニョ家に着くと、まず一番に受ける報告は、今年生まれた赤ちゃんのことだ。この家には7人の娘がいるが、みんな年頃になってきたので、ほぼ毎年、新しい赤ちゃんが誕生する。

日本で「妊娠・出産」といえば、女性にとって大事件だが、村の女性たちは、どうやって出産しているのだろう?

日本では、「生理がこない!」となれば、あわてて産婦人科の門をくぐり、医師の診断のもとで、本当に妊娠しているかどうかを確認する。それまでは、「今の自分の状態はどういうことなんだ?妊娠なのか?それとも違う病気かも?」と不安で落ち着くことができない。その後は、数週間おきに映像で胎児の成長を確認し、各種の検査で問題がないか経過を観察する。そうしなければ、無事に生まれるか心配でいられないし、実際に検査から問題が見つかって治療が必要になるケースもある。各種の妊娠出産の手引き書には「○○週間おきに医師の診察を受けなさい」と書いてあるし、実際、私もこのような過程を経て出産した。

しかし、タンザニアの村にはそのような医療設備はない。小さな診療所はあるが、なんせ電気がないので、使える医療器具は限られる。なので、女性たちにとって出産は、医療に頼るものではなく、基本的に自分でなんとかするものなのだ。

大きな体調の悪化がなければ、診療所に行くのは出産の当日が初めて、ということもある。3人目、4人目ともなれば、出産の時ですら診療所に行かずに、近所の女性に手伝ってもらって自宅で産むようになる。冒頭のニャカホも、4人目になる今回は自宅で産んだ。いよいよ産まれそうになったのが深夜で雨が降っていたので、無理して診療所に行くよりも自宅のほうがいいと判断したそうだ。つまり、「自宅で産むぞ!」と意気込んで準備していたわけでもなく、その場の判断で自宅でも産めてしまえるのだ。

彼女たちを見ていると、動物の1種として、人間も自力で子孫を残す能力があることを思い出す。医者や医療の介助がなくても、出産する力をもっているのだ。「病院で、医者がとりあげるもの」とイメージされている日本の出産とは大きな違いだ。その他の哺乳類と同じように、人間も独力でお産できるのだ。こんなアフリカでの経験からか、アフリックのメンバーには自然出産を好む人が多い。自宅で出産した人もいるし、私は、自宅ではないものの助産師さんの介助で水中出産を選んだ。

ただ、そうは言っても、みんながみんな自然出産で問題なく産めるとは限らない。日本でもそうだし、アフリカでも同じだ。ニャムコニョ家の娘の中には、帝王切開で出産した例が2人ある。村に寄贈した象パトロールカー(注)が救急車として使われる時、患者の半数は問題の生じた妊婦さんだ。緊急時に対応できる医療設備はやはり頼もしい。タンザニアのお産は、もう少し医療化していくのだろう。日本の私たちは、もう少し自分の体に備わった能力を思い出すよう努めよう。

(注)象パトロールカーの寄贈に関しては、早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンタープロジェクト「エコミュニティ・タンザニア」の報告を参照。このプロジェクトは、アフリックの「セレンゲティ・人と動物プロジェクト」の姉妹プロジェクトである。

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日本とアフリカに暮らす人びとが、それぞれの生き方や社会のあり方を見直すきっかけをつくるNPO法人「アフリック・アフリカ」です。