やり繰り上手(タンザニア)

松浦 志奈乃

タンザニア北東部の緑生い茂る山の上。週2回の定期市場はとてもにぎやかです。いろんな農作物、香辛料、魚、衣料品、雑貨。様々なものが売られ、売る人も買う人も山中から大勢集まってきます。鍋としてこの地域のみんなに使われている土器を作っている人も土器を売りに来ます。

photo料理に使われる土器

 

20代後半のダダ(スワヒリ語で‘お姉さん’)は、1歳ほどの子供を背負ながら土器を頭に担いで、市場の日は必ずといっていいほど土器を売りに来ます。彼女は土器の売り手の中でひときわ若いけれど、両親も夫もなく、女手一つで子ども3人を養っています。生計手段はもっぱら土器を作って販売することです。

市場で土器を物色するお客さんは、まず売り手に値を聞きます。そのあと、自分の思う金額を言って交渉します。その日のダダは、いつものように他の売り手と比べてお客寄りの安い価格で売っているようでした。これは一見、彼女の立場が弱いようですが、コインで土器をカンカンと力強くたたいて、はっきりとお客に土器の丈夫さをアピールする態度からは、弱さなどは微塵も感じられません。

いま売っている土器は今日焼いたものかとダダに聞いてみると、「そうよ。」との答え。その日の朝は土器を10個焼成して、そのうちの2個を、土器が欲しいという人の持ってきたインゲンマメ2カップと2リットルほどのトウモロコシの粒と交換した。だから子供のための食料をすぐに手に入れることができた、といいました。身一つで子供を養わなければならないダダにとって、土器がすぐ食料に変えられることはありがたいことなのでしょう。

この日も、あたりが暗くなりかけて市場が終る頃になると、マッチ、石鹸、ランプの油、トマト、菜っ葉、マメ、魚、砂糖、紅茶葉、トウモロコシの粒など、生活に必要な様々なものを手際よく買いそろえて、しっかりとした足取りで帰っていきました。

お客さんの値切りに耐え、土器の一点一点の利益にこだわることをせずに、土器をきちんと売りさばき、生活に必要なものを確実に得る。一回に稼ぐお金の金額よりも、最低限のお金を得て生活していくことが重要なのだ、という態度を感じました。傍から見ていると、両親も夫もいないのは周りからの助けがないと生活が大変、と思ってしまいがちですが、その分やり繰りをきっちりする、子供を養う母親の強さを見た思いでした。