丸木舟を漕ぐ技術 (ザンビア)

岡本雅博

葦舟や竹筏とならんで、丸木舟は太古の昔からあった船である。日本では、博物館などに行かないと目にすることはできない。しかし、アフリカの湖沼や河川においては、丸木舟は重要な交通手段として、いまなお生きている。

西部ザンビアに広がるザンベジ川氾濫原では、丸木舟は氾濫原を居住域とするロジの人々の大切な足代わりとして利用されている。とくにザンベジ川の水位が上昇し、あたり一帯が冠水する洪水期のあいだは、丸木舟がないと生活はなりたたない。この時期は、氾濫原にある集落も水に浸かるため、漁撈に行くときだけでなく、隣村を訪問したり、あるいは畑の収穫に行ったり、場合によっては牛の放牧時にも丸木舟が使われている。

3メートルを超えるほどの長めの櫂を手に持ち、一人で漕ぐ場合は船尾に立って、二人の場合は船尾と船首にそれぞれ立つ舟を漕ぐ。自然木を刳りぬいただけの丸木舟は、簡単にひっくり返ってしまいそうに思えるくらい安定性はよくないが、ロジの男たちは細長い丸木舟のうえにバランスよく立って丸木舟を漕ぐ。そして彼らは、二時間くらいであれば、休みもとらずに漕ぐことができる。「水を恐れず、上手に丸木舟をあやつれること」が、「本当のロジ」の条件であると彼らは語る。逆に、丸木舟をうまく漕げない者は、「本当のロジではない」とか「他民族」などと揶揄される。丸木舟を漕ぐ技術を身につけることが、「ロジらしさ」の基準のひとつになっている。

丸木舟の漕ぎ方には、大きくわけて二とおりがある。ひとつは、櫂で水を掻く方法であり、他の地域でもみられる一般的な漕ぎ方といってよいだろう。この方法は水深が比較的深いところを進む場合に用いられる。もうひとつは、櫂で水底を突いて舟を進める方法であり、水深が浅い場所でとられる。水底を突くほうが勢いよく進むことができるため、適当な浅瀬を選びながら丸木舟はすすむ。また、泥炭のようなぬかるんだ土よりも、砂土のほうが突いたときに得る力は大きい。丸木舟の漕ぎ手は、水深だけでなく、水底の土質といった条件なども瞬時のうちに判断し航路を選んでいる。

ザンベジ川の氾濫原は、凹凸がきわめて多い地形である。こうした起伏に富んだ地形は、ザンベジ川の蛇行やシロアリ塚の生成・風化など、長い年月のなかで形成されてきたものである。興味深いことに、ロジの人々はこうした地形に名称をあたえ細かく分類し認識している。こうした知識が背景にあり、丸木舟の航路選択はなされているのである。ロジのエスニカルなアイデンティティともなっている「丸木舟を漕ぐ技術」とは、彼らの強じんな身体のみならず、氾濫原という土地についての深い認識に裏打ちされたものであるといえよう。

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日本とアフリカに暮らす人びとが、それぞれの生き方や社会のあり方を見直すきっかけをつくるNPO法人「アフリック・アフリカ」です。