ロジの王権と音楽(ザンビア)

岡本 雅博

ダンダンダダダダーン、ダダダダダダダダダダーン・・・・。力強い太鼓の轟音が深夜の氾濫原に響きわたる。樹木の叢生が少ないオープンランドであるザンベジ川の氾濫原では、太鼓の響きを遮るものは何もない。

毎年、ザンベジ川を溢れ出た洪水が氾濫原一帯におよぶ時季になると、氾濫原の王宮に住むロジの王は、御座船に乗って疎開林帯の王宮にむけて引越しをする。このクォンボカと呼ばれる王の季節的移動を数日後に控えた夜半、王宮前の広場では、王によってリオマと呼ばれる太鼓が勢いよく打ち鳴らされる。10数キロ離れた地点でも聞き取ることができるこの太鼓の音を人々は、御座船の漕ぎ手を召集するための合図であると説明する。氾濫原に暮らす人々は、リオマ太鼓の響きによって、クォンボカが間近に迫っていることを知ることができる。

リオマ太鼓は、皮膜の直径が1メートルにもおよぶ大型の太鼓である。王領内に8ヶ所ある王都のうち、最高階位の称号をもつ王が在位するリアルイと女王が在位するナロロの二つの王都のみに、このリオマ太鼓は保有されている。ロジの王は通常、公衆の前に姿を現すことは稀であり、従者をとおしてしか言葉を発することはない。

そのような王が、人々の前で見せる唯一ともいってよいパフォーマンスが、クォンボカの執行を伝えるリオマ太鼓をたたくことである。「戦いの太鼓」とも呼ばれるこの太鼓は、民族集団間の抗争が激しかった時代には、戦争があることを知らせるのに用いられたという。また、リオマ太鼓の胴体には人骨がはいっているとも伝えられている。「戦い」や「人骨」といったイメージをともなう、リオマ太鼓の唸るような響きは、ロジの王がもつ力強さを象徴しているとみることができる。

このようなリオマ太鼓とは対照的に、優雅な音色を奏でる楽器がシリンバと呼ばれる木琴である。シリンバの下部には共鳴用の瓢箪がいくつも取りつけられており、その響きは明るくとても美しい。マリンバとして世界的に知られる木琴は南米のものが有名であるが、その起源と考えられるアフリカのシリンバはロジ社会に現在でも生きている。

リアルイとナロロ、それらに次ぐリボンダの三つの王都には、王宮専属の楽団が置かれている。宮廷楽団は、主旋律を担当する一台のシリンバと円筒形の太鼓ならびにつづみ状の小型の太鼓から構成されており、王宮では朝と夜の毎日二回、楽団が一定の曲目を演奏し、人々に時を告げている。王宮周辺の住民には、こうした宮廷楽団の奏でるメロディに愛着をもち、演奏の時間を心待ちにしている者も少なくない。また、王が歩くときには、必ず楽団が演奏しながら王の後ろを追従することになっている。このような音楽をともなって歩く王の姿に、ロジの王の「神なる王」としての片鱗をうかがいみることもできる。シリンバを中心とする宮廷楽団の幻想的な音楽は、王の神聖性を醸しだすのにきわめて効果的な役割を果している。

アフリカの他の王権にも広く共通することであるが、ロジの王には、戦争を指揮し、ときには謀反者を容赦なく裁くといった残虐性と、豊穣と平和を司り、人々の福利を保障するといった懐柔性との二つの性格を認めることができる。アフリカ神話に登場するトリックスターにも通底する、こうした王の二面性を演出し、そして王権の維持をはかるうえで、ロジの音楽は一定の役割を担ってきたのである。