オレンジ色の特産調味料マウェッセ(タンザニア)

藤本麻里子

トウモロコシやキャッサバの粉をお湯で練った練り粥、ウガリやご飯などの白い主食に添えられるおかずは、かなりの頻度でオレンジ色に煌いている。それはタンザニア西部、キゴマ州の特産、マウェッセを使った料理の数々。マウェッセとはアブラヤシの実から取る食用油で、アブラヤシの畑を持つ家庭の女性が時間をかけて作っている。農村部では市販のサラダ油も売られてはいるが、個人の家庭で量り売りされているマウェッセに比べると少し値段が高い。マウェッセを作っていない家庭では、子どもたちが空になった炭酸飲料の350ml瓶やミネラルをウォーターのペットボトルを抱えてマウェッセを買いにおつかいに行く光景がよく見られる。

大鍋をいっぱいに満たすマウェッセ

 値段だけでなく、サラダ油よりもマウェッセを使った料理のほうが美味しいし、身体にもいいと人々は口をそろえる。特に目にいいと人々は信じているようだ。この地域の人々は幼い頃からこのオレンジ色に煌くマウェッセで育っているので、日々の暮らしには欠かせないものである。例えて言うなら名古屋圏の人々にとっての八丁味噌のような存在だろうか。多くの料理に欠かせないベースとなるもので、油だけれど、炒め物に限らず煮込み料理などにも用いられる。豆料理、肉料理、魚料理、ムチチャと呼ばれる菜っ葉の料理、この地域のもう一つの特産、タンガ二イカ湖産の小魚、ダガーの料理。どんなものとも相性がいい。マウェッセそのものは、指につけて舐めてみたところで、そんなに強烈な香りや味があるわけではないのだが、やはりサラダ油とは異なったかすかに甘酸っぱい独特の風味を料理に与えてくれる。目にも香る地域独特の調味料だ。

ご飯と山羊肉のマウェッセ煮込み、ダガーのマウェッセ炒め添え

ご飯と豆のマウェッセ煮込み

手で食事をするのが一般的なタンザニア農村部では、人々はウガリやご飯などの主食とおかずとなる料理を交互に口に運んでいく。この地域では、マウェッセで炒めたり煮込まれたりしたおかずを口に運び、その後主食に手を伸ばすと、だんだんと主食にも黄色やオレンジの色がついていく。現地の人々は慣れた手つきでウガリを右手で丸めて最後に中心に親指でくぼみを作り、そこにマウェッセの煮汁やおかずをすくって口に運ぶので、そこまでウガリの白い塊をよごすことはないが、私は手で食べることにも慣れていないし、熱々のウガリをうまくちぎれないので、食事の終盤には純白だったウガリに黄色い跡がついてくる。子どもみたいね、と笑われながら、いつも指を黄色く染めながらの食事になる。

トウモロコシのウガリとムチチャのマウェッセ煮込み、ダガーのマウェッセ炒め添え

ダルエス・サラームの役所で出会ったキゴマ出身のおじさんに、色々とお世話になったからと帰りに1.5リットルのミネラルウォーターのペットボトルに入れたマウェッセをお土産に渡すと、強面のおじさんの顔がみるみるほころんだ。帰って奥さんにマウェッセ料理を作らせるんだ、と子どものように話していたのが印象的だ。数日後に「もうマウェッセ使った?」と尋ねても、「いや、まだなんだ。マウェッセと相性抜群の食材がまだ手に入っていないんだ」との返事。やはりキゴマ出身の人にとってマウェッセ料理へのこだわりは相当なもののようです。

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日本とアフリカに暮らす人びとが、それぞれの生き方や社会のあり方を見直すきっかけをつくるNPO法人「アフリック・アフリカ」です。