シージアが「学校でまなぶ」まで (タンザニア)

八塚 春名

「3年生のクラスはふたつあって、成績が良いとA、悪いとBなんだけど、シージアはAにいるんだ。」畑にくっついてきた私に、さっきからババジェリー(=「ジェリーのおじちゃん」)が次男のシージアを自慢している。そのシージアは、夏休み中だというので、朝からせっせと畑を手伝っている。

私がお世話になっているタンザニアの農村では、ほとんどの家族は農業で生計をたてている。お母さんは、畑でとれた穀物でお酒をつくって販売し、その収入で、石鹸や油などの日用品、マメや小魚などのおかずを買う。たまに大きなお金が必要な時は、学校の先生や売店主のようなお金持ちのところで、アルバイトをさせてもらう。雨が降らなくて作物がダメになったり、何か大きな問題でも起こったりしない限り、こうして、なんとなく、やっていける。

畑で穀物 (トウジンビエ) を収穫し、なんとなく、やっていける。

そんな村で数年前、こんな事件があった。ババジェリーが、次男のシージアを中学校に通わせていないという理由で、村の役人に捕まったのだ。村には2005年に中学校ができた。進学するには、小学校の卒業直後に受ける全国統一テストで優秀な成績を修め、さらに高い授業料を納めることが必要だ。2007年に小学校を卒業し、全国統一テストを受けたシージアのもとには、受かっていれば来るはずの合格通知は来なかった。お金の問題もあるけれど、長男も長女も町に住まわせているババジェリーにとって、シージアが学校に行かずに畑を手伝ってくれることは、とてもありがたかった。ところが、始業式から5か月もたったある日、突然、シージアのもとに、遅れに遅れた合格通知が届いた。ババジェリーはさんざん考えた結果、学費は高いし始業もすっかり遅れてしまったので、学校へは通わせないことにした。シージア自身は「勉強は好きじゃない」と言っていた。

できたばかりの中学校

そうしたら、村の役人に捕まってしまったのだ。ババジェリーは結局、シージアを中学校へ通わせるという条件で家へ返された。その翌日、私はばったり出会った役人に文句を言った。「シージアは中学へ行かなくても、ちゃんと畑ができる。それじゃダメなの?そもそも、あんなに高い学費なんて払えるわけがないのに、入学を強制するのはあんまりや。」すると、彼はこう言った。「ハルナは大学院にまで行って、こうしてよその国に勉強に来ることもできているのに、なんで村の子どもは畑があるから中学へ行かなくていいなんて言えるんだ?親は努力してお金をつくらないといけない。村の子どもだって、勉強しないといけないんだ。」それはそうだけど、でも、ババジェリーとシージアに選択権があっていいはずだと迫ったが、彼はさらにこう言った。「選択させたら中学校へは来ない。そしたらいつまでたっても、村の子どもは中学校へ行かないままだし、村はいつまでたっても遅れたままだ。小さな畑を耕して、毎日酒を飲むような生活、それじゃタンザニアはいつまでたっても変わらないんだ。」

数日後、ババジェリーは私にこんなふうに語った。「入学にたくさんお金がかかるのに、こんなに遅れて学校に入って、ついていけなかったら何の意味もないじゃないかと、ずっと思っていた。長男も、長女も中学校へ行ってないし、シージアだって別に行かなくていいとも思っていた。でも、よくよく考えたんだ。自分も妻も、長男も長女も行けなかったところへ、シージアは行くチャンスを得た。もしかしたらついていけないかもしれない。でも、もしかしたらちゃんとついていって、シージアは自分たちが知らないことをたくさん知るようになるかもしれない。いつかシージアは、いろんなことを知って、いろんなところへ行ける人になるかもしれない。そう思って学校へ行かせることにしたんだ。お金はないけれど、教会の牧師さんにお金を前借りしてアルバイトをさせてもらうことにしたよ。」

こうしてシージアは中学校へ入学した。初年度には授業料以外にもたくさんのお金が必要だったが、ババジェリーは、自分の畑を耕しながら、教会でのアルバイトもこなし、なんとかそのお金を用意した。シージアが2年生になった時には、学費の足しになるように、換金できるゴマを植えるための小さな畑を開いた。なんとなくやっていけた生活よりは少し忙しくなったけれど、それと引き替えに、ババジェリーは息子の未来に、新しい何かを託すことにした。

学校でまなぶことがすべてではない。でも、学校へ行って、いろんなことを知って、その結果、選べるものがある。その方がいいのかもしれない。そんなババジェリーの選択を、シージアは今、身をもって試している。私も今は子どもたちに、こう言っている。「たくさん勉強して、いつか、日本においで。私がタンザニアに来ているみたいに。」

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日本とアフリカに暮らす人びとが、それぞれの生き方や社会のあり方を見直すきっかけをつくるNPO法人「アフリック・アフリカ」です。