ミセケ村追い払い隊の視察:ゾウプロ訪問記③

西﨑伸子

岩井さんのゾウプロの活動は、アフリック・アフリカのこれまでの報告や岩井さんが執筆された論文・書籍等で知ることができました。しかし、実際に現場を見ることで、「知っているつもり」だったことがよく分かりました。今回の視察は、わたしが長く調査しているエチオピアの国立公園周辺の村について考える参考にもなりました。視察の受け入れに向けて準備をしてくださった岩井さんとタンザニアのロバンダ村・ミセケ村のみなさんに心から感謝申し上げます。岩井さんの報告どおり、村人の団結力と組織力が遺憾なく発揮され、まじめなのにどこか面白い、実演につぐ実演の展開になりました。以下、簡単に報告します。

ミセケ村追い払い隊のみなさんがわたしたちに実演してくれた様子を約4分の動画にしました。ぜひご覧ください。

ミセケ村に到着して最初に向かったのは「見張り小屋」です。2018年当初は、この周辺にも毎日ゾウがきて大変だったそうです。雨や寒さをしのぐための見張り小屋を「ユキノ(岩井さんのこと)の支援で建てることができた」と、ムシザキさんが誇らしげに、また感謝の気持ちをこめて話してくださいました。この見張り小屋で60名ほどが寝泊まりしながら、交代で追い払い活動を続けています。「こんな風に寝るんだよ」と、寝ているところまで実演してくれました。

丘に建つ見張り小屋

見張り小屋で、ゾウを遠ざけるために大きな音を鳴らすバルーティと呼ばれる爆音器の使い方について説明を受けました。岩井さんの記事や報告で度々耳にしていた、12箱分のマッチの芯から火薬を製造する取り組みもみせてもらいました。床に散らばるマッチ箱と丸いところを削ぎ取られたマッチ棒(単なる棒になっている)が、涙ぐましい努力を物語っていました。

次に、追い払い隊の女性による、投石(コンベオ)の様子を実演してもらいました。この小さな石で、あの大きなゾウを怖がらすことができるのだろうか、と不思議に思っていたのですが、岩井さんによると、予想外の方向から飛んでくる小石がボコっとあたると、ゾウは驚き逃げ去るそうです。素敵な模様のワンピースを着た女性が、ゾウにボコッとあてるための小石をぶるんぶるんと遠くまで投げることに成功しました。誇らしげな様子で牛の角のかぶりものを装着する様子に、わたしたちはみな大喜び。大きな歓声があがりました。

次に、集団でゾウを公園側に追い払う様子の実演がおこなわれました。この実演のためにも相当な準備をしてくれたのでしょう。ゾウ役と追い払い役に分かれて、ゾウと追い払い隊の実際の動きを忠実に、そして迫真の演技力で再現してくれました。ゾウの細やかな動きまでこだわって再現してくれたそうですが、あまりに一瞬の出来事で、わたしの目ではそこまで追いきれませんでした。分刻みのスケジュールでなければ、もう一度みたい迫力満点の追い払いの実演でした。

素晴らしいおもてなし力で、迎えてくれた村人のみなさん

そして、追い払い隊の活動中に亡くなったピーターさんの自宅と墓地を訪れました。岩井さんからこの出来事を聞いたのは、わたしたちがタンザニアに到着してからでした。活動中の仲間が亡くなる現場に自身が居合わせることが、どれほどつらく、悲しい出来事であったか。わたしたちに伝えるのにも時間がかかったという岩井さんの心情を思うと、言葉にならない思いがわきあがります。小さな子どもを含む、残された家族にご挨拶しました。「この家族を支え、活動を続けていく」という村人の言葉が、心に深く残りました。その後、アフリック・アフリカからのご挨拶と記念品の贈呈式がおこなわれましたが、その詳細は松浦さんが報告してくれることでしょう。

今回の視察を通じて、「人と野生動物の共存や共生」の厳しさを改めて感じました。前半に視察した、追い払い隊の結束力や団結力は、野生動物による被害への対抗的な活動を通じて村人が得た素晴らしい取り組みです。活動をわたしたちに紹介する村人たちの、どこか楽しげな雰囲気と笑顔があふれる実演の数々に、厳しい状況を忘れてしまいそうになりました。

一方で、何年にもわたり、チームでの活動が続けられても、被害は一向に収束せず、「人と野生動物の戦い」の厳しさが絶えず示されます。村人にとっては厄介な存在であるゾウは、村と隣接する世界的に有名なセレンゲティ国立公園では、多くの観光客をひきつける存在になっています。ですからゾウを単純に殺すという選択肢はありません。全域を電柵で囲うことも、国立公園と農地の間に十分なバッファーゾーンを設けることも、予算の制約からできないとのことです。画期的な解決方法が提示されないかぎり、現場での追い払い活動がこれからも必要不可欠であることがわかりました。

岩井さんは、大学院生のころから現場の人々との信頼関係を丁寧に築きあげ、追い払い活動を続けてきました。その活動は今やミセケ村だけでなく、他の村にも広がっているとのことです。わたしが調査をしているエチオピアや日本の農村にも共通する課題で、学びの多い視察になりました。アフリックの支援は大変喜ばれており、これからも、微力ながら追い払い隊の活動を支援できればとあらためて感じました。