エチオピアの物価高-「働く」

松原 加奈

現在、日本ではすべてのものの価格が高くなっている。2022年4月ごろから、日本では体感できるほど、物価高騰が進んでいる。20年程、消費者物価上昇率がそんなに高くなかった日本ではめずらしいことだ。
私たちの生活が苦しくなっている日本の物価高を考えるとき、私はいつもエチオピアの工場内でのものの値上げの話を思い出す。2019年までは、エチオピアの物価上昇は日本に比べれば高いが、今の状況を思うと緩やかであった。その物価高の話もコロナ禍前後とロシアのウクライナ侵攻、そして(2018年から継続している)エチオピアの内戦によって、深刻さが大きく変わり、女性たちの顔が曇りつつあるのだ。

私はエチオピアの首都アジスアベバの革靴工場で働く労働者を調査対象としている。男女比率は低い工場では6割弱、高い工場では9割弱が女性だ。また、エチオピアはジェンダー・ギャップ指数が日本の125位に比べ、75位と高い [Global Gender Gap Report 2023参照]。しかし、私の聞いている限り、首都アジスアベバでも調理や家事をこなすのは圧倒的に女性が多い。そのような状況にある彼女たちは、衣食住に関する値段はとても敏感だ。
私は工場で働く女性たちとともに過ごす機会が多く、彼女たちはインタビューや何気ないおしゃべりでかならずと言っていいほど、給料が低いこと、そして物価の高騰について口にしていた。幼少期と2019年の時を比較して、パン1個、インジェラ 1枚、1キロのテフの価格がどれくらい上がったか具体的に話に出して、生活苦を語っていた。ただし、その時の状況がまだまだよかったのだと彼女たちが話すほど、状況は急速に悪化していく。

2022年夏、コロナ禍後にエチオピアを訪れた私は価格のギャップに仰天した。すべてのものの値段が倍になっていたのである。そして2023年2月に再訪した際には、2022年夏に比べて、ものの値段が1.5倍になっていた。事実、世界銀行のデータで消費者物価指数(CPI)をみるとそれが顕著だ。2010年を基準として比較すると、日本は2021年には5%、2022年には7%上昇している。その一方でエチオピアは2020年で388%、2021年は492%にまで上昇している。
物価が高騰しすぎて混乱していたが、彼女たちもその状況についていけないようであった。物価が一日で変動する可能性があること、昇給は物価上昇に伴っていないことへの不平不満を口々にこぼした。

「朝のパンの値段が夜には1ブル上がっていることがある」
「1年前のテフの値段に比べると今は倍近く上がっている。給料は上がっていないのに」
「給料が少ない子たちは昼ごはんを抜いていることがほとんど。前よりも確実にその割合は増えている」

苦しくても自分の技能が身につけば、昇給して自分だけの給料で食べていけるようになっていた以前に比べ、現在は熟練労働者の給料でも難しくなっている。仕事を始めたばかりの労働者であればなおさらだ。
コロナ禍前は苦しくても、工場の友人たちと連れ立って珈琲を昼休みに飲み、談笑をしていた。週に一度はヘアスタイルを変え、友人たちと褒め合っていた。しかし、この物価高騰が進み続ける状況ではそれさえも難しくなっている。この状況が落ち着くのはいつであろうかと憂うばかりだ。

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