『ルポ・アフリカに進出する日本の新宗教』上野庸平=著

紹介:池邉 智基

本書は、ブルキナファソ、ガーナ、ウガンダ、コンゴ共和国などで信仰されている日本の新宗教について記したルポルタージュである。アフリカには各地の伝統宗教に加え、キリスト教やイスラームが広く信仰されている。そのような中で、日本で成立した新宗教が信仰されているというのはどういった経緯からなのか。そして、人びとは日本の新宗教をいかなる教えとして理解し、布教活動を行っているのか。著者はブルキナファソに長期滞在していた際に各地の宗教施設を訪問し、信徒への丹念な取材を試み、アフリカにおける日本の新宗教が受容され実践されている様を、本書で詳細に示している。

本書が扱う新宗教は次の6つである。まず第1章では、ラエリアン・ムーブメントについて紹介されている。1973年にフランス人ラエルが地球外生命体から「地球人は宇宙人によって創造された」という「科学的な真実」を信念としてセミナーなどを開いているラエリアン・ムーブメントは、日本で信者を数多く獲得したことで日本国内に拠点を持つ。日本の新宗教ではないものの日本と強い関係を持つラエリアン・ムーブメントは、1970年代からブルキナファソでも定期的な集会が開催されている。

第2章では、大川隆法を開祖とする幸福の科学が現在ウガンダで流行している状況が描かれている。ウガンダでは日本人の信者による地道な布教が実を結び、2012年には大川隆法も現地を訪れて大講演会を開いたこともあるほどだ。

第3章では、真言宗から派生した仏教系新宗教の真如苑が紹介されている。JICA青年海外協力隊員であった日本人男性信者「フジモトサン」による真如苑の「オタスケ」(布教)がブルキナファソで地道に行われ、実際に彼の導きで入信したブルキナファソ人男性のオーラルヒストリーから現地の布教活動について詳細に描かれている。

第4章では、掌から「高次元の神の真の光を放射」する「手かざし」や「お浄め」によって悩みや問題を解決するという実践をもつ崇教真光のブルキナファソにおける受容が描かれている。フランスのメディアでも紹介されている崇教真光は、フランス語圏西アフリカでもラジオなどを通じて存在が広く知られ、各地で信徒を獲得している。

第5章では、文鮮明による韓国発の統一教会の食口(信徒)たちが、合同結婚式などを通じてブルキナファソに居住していることを取材した記述がある。ブルキナファソに嫁いだ日本人女性へのインタビューをはじめ、それぞれのライフヒストリーは非常に興味深い。

第6章では、アフリカの各地で布教が盛んに行われている創価学会が扱われている。特に興味深い点は、日蓮正宗から破門された創価学会という組織的な軋轢の歴史が、アフリカでの日蓮宗信徒と創価学会員とのコンフリクトにも繋がっていることであり、その経緯がブルキナファソとガーナでの取材記録から示されている。

「無宗教」を自認する人が多くを占める日本の感覚からすれば、新宗教がアフリカに「進出」というとやはり、組織的な霊感商法や政治的関与といった想像をしてしまうだろう。しかし重要な点は、たしかに日本の新宗教がアフリカに「進出」してはいるものの、それが日本で行われているような組織的な布教が行われているというよりも、個人間の対話をきっかけとして信徒が少しずつ増えていることである。キリスト教やイスラームに比べればその規模はまだまだ小さいものの、徐々に存在感を持ってきてもいる。著者はアフリカに住む人々がそれぞれ意識的に宗教的・哲学的な考えを持っていることに強い関心があり、探求のための選択の結果として日本の新宗教に入信する人々の心性を細かに描いている。アフリカの多くで信仰されているキリスト教やイスラームなどの一神教は神に自己の一切を委ねるものであり、日々直面する人生における悩みについての実存的問題を解決してくれるわけでは必ずしもない。しかし、例えば仏教系新宗教はそうした側面にも「悟り」の思考や解決の糸口を与えてくれるのである。そうした人びとの生活に基づく宗教間比較を通じて、彼ら彼女らが日本の新宗教の中から「答え」を導きだそうとする宗教的探求は、日本の新宗教を選び取ることにも繋がっており、緻密な取材記録から十分な説得力を持って示されている。

書誌情報:

出版社:花伝社
発売日:2016年7月8日
言語:日本語
単行本:224ページ
ISBN-10:4763407848
ISBN-13:978-4763407849