仕事おわりの様変わり

松原 加奈

日本でもエチオピアでも、働く人びとが浮足立つのはやはり仕事おわりだと思う。エチオピアの革靴工場で朝から調査をしていると、終業の時間が近づくにつれ、仕事の終わる高揚感が労働者全員から伝わってくる。今回は仕事とプライベートの区切りをつけるようにきれいに身支度をし、工場をあとにする女性の労働者の話をしよう。

革靴の製造工程内では、手が汚れるような場面が多々ある。革の染料で手は黒ずみ、接着剤を使用した作業では接着剤が付く。ミシンなどの機械を使用していると潤滑油で手は汚れる。このように手は作業の色々な場面で汚れていく。
この汚れは服にも付着することがある。企業では作業着としてTシャツやエプロンを労働者に提供している。しかし、ズボンやスカートは支給されないため、労働者は汚れてもいいボトムスを持参する。長期で働く労働者は支給されたTシャツが色あせて、汚れや破れでぼろぼろだ(時折新しく作業着が提供されることはあるが数年単位である)。また、ミシンを扱ったり、その補助をしたりする人びとは、サンダルを履くことが多い。服も手と同様に作業で汚れるため、その場では服に気をかけない労働者が多い。

写真:作業着を着てミシンで縫製をおこなう労働者

昼食を食べるために手の汚れを落とすことはあるが、労働者が手や身体の汚れを完全に落とすのは終業時だ。終業時間の10分、15分前には、片づけをしつつ、入れ替わり立ち代わりトイレへ行く。就業中に付いた汚れを落とすためだ。手を洗うだけの人もいれば、汗をかいた顔を洗う人もいる。なんなら足まで洗う人もいる。朝から夕方までの就業時間内に、数のないトイレに数人、多いときは十人以上集まるのはこのときくらいだ。はじめてその場に居合わせたときはとても驚いたことを覚えている。
その後、終業のサイレンが鳴ると、みんな一斉に小走りまたは全速力で走り、工場の作業スペースを出て、更衣室へと向かう。そこでおしゃれな服に着替え、靴を履き替え、化粧直しをし、プライベートへと気持ちを切り替える。

話は飛ぶが、エチオピア人の人口の約4割がエチオピア正教会を信仰する。ひと月のなかで、今日はマリアムの日、今日はヨハネスの日といったような聖人の記念日がある(盛大な記念日は聖人ごとに1年に一度ある)。エチオピア正教徒の人びとには好きな聖人がおり、その記念日には女性たちはハベシャ・カミス(エチオピアンドレス)を着て、教会にいくことがある。工場の労働者も例外ではなく、女性の労働者のなかには、そのドレスを着て、就業前の早朝や終業後に教会に行く。終業後に上記のように作業着からハベシャ・カミスに着替え、各々のドレスを見せあう姿は何度見てもすてきだ。

就業中とは異なり、仕事を終えた人びとの顔は晴れ晴れとし、工場を出るときは身綺麗な服を着ている。その様変わりっぷりは何度見ていてもすっきりする。終業後はみんなさっさと帰宅してしまうので、その写真は撮れていないのが心残りだ…