『Motivation』を持って働く(カメルーン)

坂梨 健太

カメルーン南部の森の中。日照りがきつい昼間を避けるべく、早朝、涼しい内に畑作業をおこなうことはよくある。ただし、Motivation(モチベーション、彼らはフランス語読みで「モチバッション」と言う)があるかどうかで、仕事の進捗は大きく左右される。屈強な男達にとって特に重労働となるのが、畑の伐開である。マシェット(山刀)一本で、二次林を開いていかなければならないからだ。しばしば見られるのが、近隣の友人達を呼んで一気に終わらせてしまうやり方である。

早朝から呼ばれる男達は不機嫌だ。そこで依頼主は「モチバッションだ」と小袋を渡す。それは、駄菓子屋で売られていた粉末ジュースの小袋に似ている。ここで配られるのはそんなものではない。中身は30ccほどのウィスキーである。男達は待っていましたと言わんばかりに、一口、二口で飲み干してしまう。朝食が出ないことが多く、寝起きの一杯はあっという間に体中にまわり、たちまちテンションが上がってしまう。そして、その高いテンションのまま仕事へと向かうのである。もちろん、途中でアルコールが効き過ぎて、ばてる者(特に私)も出てくるが、少なくとも最初の段階では「やるぞ」というモチベーションを与えてくれる。

伐開に向かう男達

この地域はカカオ生産が盛んなところでもある。収穫期の大事な仕事として、伐開作業と同じように近隣から人を呼んで、カカオの種子を取り出す作業がある。この時は、仕事のためなのか、モチベーションのためなのか区別がつかない。なぜなら、飲みながらの作業になってしまうからだ。みんなで飲み、歌うシーンは、その作業に至るまでにおこなわれてきた、カカオ収穫の過酷な仕事とは別次元だ(注1)。

カカオの実を割る共同作業

仕事終わりの一杯というのもある。男達は、しばしば狩猟をおこなう。誰もがおこなう方法が罠猟である。罠を森の奧深くまで100個以上設置する者もいる。彼らは週に2、3回は森に入って罠を確認している。1回につき数時間かかることもある。その際、森の小道から外れたところにヤシ酒が飲める場所を作っている者も少なくない。ヤシ酒とは、アブラヤシの樹液を自然発酵させたアルコール度数の低い酒である。アブラヤシは様々なところに生えている。種子は食用油のために採集される。その後、頃合いを見計らってヤシ酒用に切り倒され、先端から滴る樹液を集めて発酵される。1本のアブラヤシから1日に2〜3Lのヤシ酒が得られる。たいてい、朝と夕の2回採取されるが、仕事帰りの一杯を計算に入れて朝の取り分を夕方に回す者もいる。確かに森歩きの後のヤシ酒は格別である。喉の渇きを癒してくれること間違いない。ヤシ酒は女性にも好まれ、たとえ獣肉が獲れなくても、土産にヤシ酒を渡したら文句を言われない。むしろ、持って帰らない方が危ない。

ヤシ酒で一服

私も友人とよく罠の確認とともにヤシ酒のお相伴に預かっていた。しかし、ヤシ酒は常に喉の乾きを取りのぞき、疲れを癒してくれるとは限らない。私達が罠の確認をしている間に、誰かが勝手に飲んでしまうこともあるのだ。楽しみにしていた仕事終わりの一杯がない。疲れは2倍になり、怒りがふつふつとわき上がってくる。怒りが収まらず、私は村に戻って、キャッサバとトウモロコシの蒸留酒を売っている家に駆け込む。友人とのヤケ酒だ。モチベーションを持って仕事をするというのも中々難しいものだ。

今回のエッセイは「働く」というテーマだったのだが、若干、逸脱してしまったようだ。「働く」こととその前後で繰り広げられモチベーションの楽しみは表裏一体ではないだろうか。楽しみ過ぎるのもまずいが、楽しみがないと仕事は続かない。

さて、皆さん、そろそろ仕事終わりの一杯といきましょうか!!

注1 勿論、コートジボワール等で報告されているカカオの児童労働の問題は無視できないし、短絡的にカカオ労働が楽しいものであるというつもりはない。カメルーン南部は家族経営でカカオ生産がおこなわれており、コートジボワールなどの西アフリカ諸国と政治的、歴史的文脈が異なる。児童労働の問題については、例えば、キャロル・オフ著『チョコレートの事実』英治出版2007年を参照)。

注2 カメルーンの法律ではワイヤーを用いた罠猟は禁止されている。しかし、多くの人がタンパク源、現金収入の一部を獣肉に頼らざるを得ず、私は一概に禁止を主張できないと考えている。

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日本とアフリカに暮らす人びとが、それぞれの生き方や社会のあり方を見直すきっかけをつくるNPO法人「アフリック・アフリカ」です。