森のスウィーツ(カメルーン)

小山 祐実

カメルーン東部には狩猟採集民ピグミーのバカの人たちが広範囲にわたって住んでいる。バカたちは甘いものが大好き。日本人と一緒にコーヒーを飲むときも角砂糖を最低4つはいれ、それでもまだ遠慮しているようだ。バカ語で味覚を示す言葉は甘いか苦いかで、甘いは美味しいと同義で使われている。もちろん森の中にはお菓子やケーキなどはなく、村の商店で購入できる砂糖も高価だ。しかし森で採れる絶品のスウィーツがある。それは蜂蜜、バカの大好物だ。森の蜂蜜にはいろいろな種類があり、一般的な針あり蜂の蜜(ポキ)、針なし蜂の蜜(ダンドゥー・ジェンジェ等)といったように、花の種類や、蜜を運ぶ蜂の針の有無、大きさで味やとれる量が全く違う。今回は針なし蜂の蜂蜜、(バカ語で)ダンドゥー採りに同行した。ダンドゥーは日本でよく売られているものより、さらさらして琥珀色の透き通った蜜だ。ほのかに花の香りがして、ブドウの風味がある。

ダンドゥーを作る針なし蜂は、普通の蜂の半分くらいの大きさで黒っぽく、見慣れないとハエと間違えてしまう。この蜂はカメルーン東部だけでなく、国内全体に生息している。

まず蜂の巣の見つけ方だが、目がとてもいいバカは森を歩いているときにすぐ見つけてしまうそうだ。森で一日歩けば3、4個は見かけるくらい蜂の巣が豊富で、見かけたらその場で木に印をつける。針なし蜂はしばしばヤシの木、または太い木を好む。頻度は決まっておらず、ほかの狩猟採集が落ち着いたころに蜂蜜取りに行く。最低2、3人で巣のある場所へと向かう。次に木の上から蜂の巣を入れて下におろすためのバスケット製作が始まる。しなり易い細めの枝を見つけてきて骨組みを作り、さらに細い蔓で骨組みの回りをぐるぐる巻く。最後にボボコ(マランタセイ)と呼ばれる万能でしっかりとした葉を中に敷いて受け皿にし、バスケットが完成。バカはものの15分で仕上げてしまうが、適当な枝や蔓を見つけ、折れないように枝をしならせたりするのは難易度が高く、完成したものは一つの作品のようだ。

バスケットの用意ができたら、今度はコファと呼ばれる斧とバスケットを持って木に登り蜂の巣を取り外す作業に移る。20メートルはある木の上に命綱なしですいすいと登ってしまう。今回はバカの男性が木に登っていたが、男女で分業されているわけではなく、たとえ年を取っていても(40歳未満まで)木登りが得意な人が担当する。実際に巣は見てはいないが、直径30㎝、長さ40㎝ほどの楕円形で、表面はこげ茶の木の皮のような見た目だ。ポキ(約1m)より小さいがダンドゥーの方が重いらしい。巣のある場所が高く下からは観察できなかったが、10分ほど斧で木をたたく音がした。実は蜂の巣がかかっている枝を切り落としているのではなく、巣の上部に直接穴をあけ、真ん中にある幼虫が入っているセルを取り除く。そして密で満たされたセルの外側をバスケットに入れ慎重におろす。かごいっぱいに巣が詰まっており、持ってきた容器に蜜を移す。大体一つの巣から1リットル以上はとれるらしい。大量の蜂と虫が集まってきたが針なしなので安心だ。巣の破片やセルは無造作に放り投げられ、一滴も無駄にせずという勢いで子供たちが競って拾い、むしゃぶっていた。家に持って帰って家族と分けるのかと思いきや、その場で半分以上飲んでしまった。甘さ控えめなのでバカたちはそのまま飲んだり(甘みの強いポキもごくごく飲む)、調理用バナナのプランテンやキャッサバ、マカボ(イモ)と一緒に食べるが、キャッサバの粉で作るクスクスや、コメとは一緒に食べないそうだ。ちなみに巣の中のセルの部分は苦くそのままでは食べられないが、バカはそれを焼いて水分を出しカリカリにして、蜂蜜と絡めて食べる。

作業はおよそ1時間半で終了。今回の蜂蜜採りは、食物採集というより子供たちで楽しくおいしいものを食べに行ったという感じが強く、遊んでおしゃべりしながらたまの贅沢を味わった。

(紹介者 戸田美佳子)