映画『テザ—慟哭の大地』

紹介:眞城 百華

この映画は、エチオピアの1970年代、80年代の革命から軍事政権の時代を描いた映画です。ディアスポラでもあるエチオピア人監督ハイレ・ゲリマ氏の視点からエチオピアの激動の現代史と故郷への思いが描かれています。全編がエチオピアのアムハラ語の映画であるにもかかわらず、この映画は2008年のヴェネチア国際映画祭において金のオゼッラ賞(脚本賞)・審査員特別賞・SIGNIS賞をトリプル受賞し、その後も多くの映画祭で賞を得ました。

映画の内容は、エチオピア帝政の崩壊からメンギスツ政権の成立、メンギスツ政権下での政治的対立、内戦など多くの矛盾が一人のエチオピア人ディアスポラの視点から丁寧に描かれています。ハイレセラシエ皇帝の治世期にヨーロッパに留学した主人公アンベルブルは、留学先で祖国の変革を求める運動に参加します。1974年の本国の革命により、エチオピアでは10数世紀続いてきた帝政が崩壊します。革命を仲間と喜びあった彼ですが、革命から数年たって帰国すると故郷は軍事政権の独裁体制におかれていました。「革命」の理想と現実の間で知識人でもあるエチオピア人ディアスポラは苦悩していきます。軍部が支配する社会主義政権の国の中では多くの自由と多くの人命が奪われていました。行き場を失ったアンベルブルはいったんヨーロッパに戻りますが、そこで人種差別に起因する不幸な事件が彼を襲います。心身ともに傷を負った彼がやっとのことで帰りついた故郷の村も、内戦、政争の場と化し、幼い命までも簡単に奪われていく現実がありました。絶望的状況の中でアンベルブルが見出した未来へのかすかな光、村でであった娘との間に生まれた新しい命、教育への情熱が最後に見出されていく過程は、新しい時代の到来を予見させます。

エチオピアに限らず、同時代の他のアフリカの国々が抱えた問題(独裁、内戦、冷戦の構図など)とも通底する点が多くあると感じました。他方で、アフリカ人自身による故郷の描き方、またこの映画に特異なディアスポラという特別な視点から故郷を振り返る点がこの映画の独特の世界観を築いているといえます。特に農村の様子は何千年も変わらないエチオピアの光景を伝えています。アフリカやエチオピアに関心のある方、映画に興味のある方、多くの方に見ていただきたい映画だと思います。

 

テザ上映情報
7月29日まで東京の渋谷・イメージフォーラムで上映中。
秋から大阪・シネ・ヌーヴォ、京都・京都みなみ会館でも上映予定です。

日本から一気にアフリカのエチオピアの世界に連れて行ってくれる映画です。140分と大作ですが、映画館でぜひアフリカの激動の歴史や村の生活に思いをはせてみてください。

映画『テザ』の公式HPでは、映画とエチオピア現代史のつながりについて簡単に説明しています。あわせてご覧ください。

DVD情報

「テザ 慟哭の大地」
ハイレ・ゲリマ監督
2012年9月発売
シネマトリックス、紀伊國屋書店