自転車モドキ (タンザニア)

近藤 史

「・・・・!・・・・・・!!!」 なにやら丘の上の方から男の子たちのはしゃいだ叫び声が聞こえる。見上げれば、坂道を駆けおりてくる数人の集団。よく見ると先頭だけ加速しながら迫ってくる。あ、アレは!慌てて道をあけると、自転車モドキに乗った少年が嬉しそうに走り抜けていった。

私がお世話になっているキファニャ村では、自転車は高価な贅沢品だ。子どもが自分用の自転車を持つことなんて夢のまた夢。でも指をくわえて見ているだけじゃあつまらない。男の子たちのお気に入りの遊びは、木製の自転車モドキを自作してカッコヨク乗りまわすことだ。

自転車モドキはちょっとした荷車にもなる。母親のトウモロコシ収穫作業を手伝った
少年たちが、自転車モドキに袋詰めのトウモロコシを満載して帰ってきた
 

この自転車モドキ、チェーンとペダルが無いことを除けば、本物の自転車そっくりの代物である。ボディーにハンドル、サドル、タイヤ、足で踏みタイヤを押さえつける仕組みのブレーキまでついている。材料は、近くの二次林や人工林*1から集めてくる。パンガ(山刀)を自在に操って、適当な形の枝から必要な部品を削りだす。誰よりも早く走れるかどうかは、タイヤの出来具合にかかっている。人工林の製材跡地から拾ってきた輪切りの幹を丹念に削って滑らかな円盤をつくり、中央に車軸を通す穴を開けて、仕上げに自動車の廃タイヤから切り取ったゴムを巻き付ける。全てを組みたてれば、立派な自転車モドキのできあがり。

乗り方はキックボードのように、ハンドルを持って駆け足で押し進みながら、勢いをつけてサドルに飛び乗るというもの。平らな道ではそれほど威力を発揮しないが、幸いなことにキファニャ村はなだらかな丘が連なっている。丘のてっぺんで自転車モドキに跨がれば、麓まで一気に疾走できる。途中、道の凹凸に煽られて跳ねたりぐらついたり、舗装されていない土の道だからこそ味わえるスリルに、今日も男の子たちは歓声をあげていることだろう。

キファニャ村の全域には、草原に覆われた丘陵が広がっている。
天然林は渓谷の源頭部にみられるだけで、丘陵の稜線部には人工林がつくられている
注1) この地域は、製炭用のブラックワトル(Acacia mearnsii)や製材用のパツラマツ(Pinus patula)といった外来樹種の造林が盛んである。