ミヤンビリの娯楽(タンザニア)

藤本 麻里子

サッカーはタンザニアでも人気ナンバーワンのスポーツです。農村部のあちらこちらでサッカーに興じる少年たち、またおじさんたちを見かけます。ボール1つあればどこででも出来てルールも単純、これらがアフリカでのサッカー人気の理由でしょう。ゴム製の良いサッカーボールはなくても、破れて使えなくなったビニール袋でぼろきれを包み、ヒモで縛ってボールを作っていつでもどこでもサッカーが始まります。また、タンザニアのサッカー熱にはプレイするのとは別のもう1つの側面、サッカー観戦があります。

タンザニア農村部では電気が通っていないので、日々の生活に登場する電化製品といえば電池式のラジオくらいです。しかし村の中に1、2軒、テレビとジェネレータを完備している家があります。持ち主は街で商売をして財を成した人で、テレビも自分の娯楽と村での商売の両方の側面を持っています。祝日やヨーロッパのサッカー中継がある日はジェネレータを動かしてテレビを映し、視聴希望者から200タンザニアシリング(1シリングが約0.08円なので、20円弱)を徴収して上映会を開きます。多くのタンザニア人男性、子どもたちに人気なのが、マンU、バルセロナ、などの世界のスーパースターがプレイするチームです。村の男たち、男の子たちは「待ってました」とばかりに200シリング硬貨を握り締めて集まります。定期的にお小遣いなんてもらえない子どもたちは、こんな日のために日頃からせっせとお手伝いをして「サッカー観たいから200シリングちょうだい」と両親のところに行き「mia mbili (ミヤンビリ、スワヒリ語で200の意味)」を連発します。200シリングは現地の人々にとって特に高価というわけではありませんが、市場で塩1kgほどが買える値段です。 200シリングを手に入れた子どもたちは嬉しそうに上映会会場に向かいます。明るいとテレビが見えにくいこと、サッカー中継がだいたい夜に行われることから、村での上映会は夕方から夜に始まります。女性やサッカー観戦に行かない子どもたちは家にいて、10時頃には床に就くのですがちょうどそのころです。

ウォー!!

という大歓声が聞こえます。私はその声の凄まじさに何事が起こったのかと不安になりましたが、すぐに「ゴールがきまったのよ」と女性が教えてくれました。サッカー観戦のある日はいつもそうなのだそうです。女性の説明を聞き、男たちの興奮ぶりを想像して笑ってしまいました。ミヤンビリであんなに楽しめるなら、テレビも立派な娯楽だなと、日本ではネットに押され気味のテレビの力に思いを馳せながら眠りにつくのですが、再び大歓声で目覚めるのでした。

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日本とアフリカに暮らす人びとが、それぞれの生き方や社会のあり方を見直すきっかけをつくるNPO法人「アフリック・アフリカ」です。