Hamu ya nyama 肉への欲求(タンザニア)

八塚 春名

リフトバレー熱という人畜共通感染症をご存知だろうか?今年、タンザニアではリフトバレー熱が流行し、特に私の調査地域であるドドマ州は被害が大きく、人への感染も確認された。ドドマの町でも私の調査村でも、“人が100人死んだ”とか“60人入院した”とか、毎日、さまざまな噂が飛び交っていた。おかげでウシ、ヤギ、ヒツジの肉がまったく売られなくなり、私も含めみんなベジタリアン生活を送ることになった。そして“Hamu ya nyama(肉への欲求)”この言葉がたびたび会話に登場するようになった。

私の村では毎月22日に市が開かれる。月に一度のこの市のメインは家畜で、町の商人が村の家畜を買い、町につれて行って高値で売る。そしてその横でウシやヤギがさっそく屠殺されて肉が販売される。しかしリフトバレー熱のせいで3月22日,4月22日,5月22日はこの家畜市が開催されなくなってしまった。

4月末、流行を見かねた県政府が県中のすべての家畜に無料でワクチン接種をすることを決め、私の村でもワクチン接種が行われた。接種21日後には屠殺しても良いとラジオが言ったという噂により、「これでやっと肉が食べられる!」とみんなワクワクした。しかし私たちの希望もつかの間、実はすべての家畜に接種する前にワクチンがなくなってしまったことがわかり、また肉はおあずけになってしまった。そう、またhamu ya nyamaが続いたのだ。

6月22日の家畜市もきっとまた開催されないよ。みんなこんなふうに希望を捨てていたところ、前日になって“明日は家畜市を開催する”という知らせがまわってきた。家畜市を開催するということはつまり、家畜を売ってもいい、つまり肉を食べてもいいということで、つまり、そう!「明日は肉が食べられる!」ということなのだ

22日の朝、hamu ya nyamaを抱えた村人たちは、「どんなに長く肉を食べてなかったことか。今日はみんな肉を取り合ってけんかすることになるだろう。」と言いながらワクワクして市に出かけた。しかし行ってみると、家畜市復活の知らせはおそらく広まりきらなかったようで、家畜は少なく、また、リフトバレー熱の流行前は1本2000Tshだったヤギの足が1本3500Tshで売られており、多くの人たちは指をくわえて肉を見ただけで終わってしまった。つまり、多くの村人たちはhamu ya nyamaを抱えたまま市を後にしたのだ。

私はというと、朝早く市に出かけたお父さんが、3500Tshのヤギの足を買って帰ってきたので、久々のヤギ肉を楽しんだ。Hamu ya nyamaを抱えながら待ちに待った肉は、柔らかく炊かれ、それはそれはおいしかった。おいしいおかずはご飯がすすむと言うけれど、本当においしいおかずはご飯を忘れてしまうのではないだろうか。私たちは主食を食べることを忘れてしまうほど、肉に夢中になった。その2週間後、近所のおじさんが「アンテロープの肉があるよ。」と教えてくれ、買いに行った。その肉は、とてもきれいで、柔らかくておいしかった。獣肉は家畜肉に勝る。村人たちはこう言い、私もこう思う。しかし、どんなにおいしい肉でも、hamu ya nyamaが最も大きかった6月22日に口にしたあのヤギ肉に勝る肉はない。

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日本とアフリカに暮らす人びとが、それぞれの生き方や社会のあり方を見直すきっかけをつくるNPO法人「アフリック・アフリカ」です。