「テンカ(Tenka)」
これは2003年12月11日に私に与えられた名前であり、ある植物の名前でもある。 タンザニアのサンダウェという人々の村で調査を始めた頃の私は、「私もサンダウェ語の名前が欲しい」と思っていた。そんな私に友達のブタとカツァワがテンカという名前をつけてくれたのだ。
テンカは乾期の終わりから雨期の初めにかけて、小さくて、砂糖のように甘い実をつける。花は黄色、全体的にこんもりした感じの木で、サンダウェにとっては典型的な女性の名前である。
テンカという名前をもらったその日から、私はサンダウェの一員になれたようでうれしくてうれしくて、「私はテンカって言うの」と方々で言って歩いた。また、村の人たちも私がサンダウェ語の名前を持ったことを喜んでくれていたようで、私にはそれがまたうれしかった。
「ハルナは今日からテンカにしよう!」と喋っていた2003年12月11日の昼下がり。
写真左がブタで右がカツァワ
サンダウェは、生まれた子供に木の名前を付ける習慣がある。もちろん例外もあるが、村の多くの人たちの名前は、木の名前に由来する。彼らは、生まれた子供のへその緒を林の木の下に置きに行く。そしてその木の名前を子供に付ける。本来、へその緒を置きに林に入るのは、子供の両親ではなく祖父母や近所の人などであるが、近年、子供の親が自ら置きに行くこともあるようだ。男の子供の場合、バオバブのような大きな木、アカシアのようにトゲのある木が多く、女の子供の場合、テンカのように甘い果実が実る木や、かわいらしい花が咲く木が多く用いられている。私にテンカという名前を付けてくれた二人の友人は、ブタとカツァワという名前だが、ブタは雨期になると青紫のかわいい花をたくさん付け、カツァワは黄色やピンクの少し渋味のある果実を付ける。
木にまつわるこのような名付けの習慣を持ち、木について非常に詳しいサンダウェの人々は自らを「木の人(watu wa miti)」と表現することがある。わたしはそんな彼 らをかっこいいと思う。彼らの社会がどのように変化したとしても、自分たちの素晴らしいところをいつまでも誇り続けて欲しい。そして私もいつかサンダウェのように、自分の子供に木の名前を付けたいと思う。
※テンカ(Tenka):シナノキ科Grewia praecox
※ブタ(Buta)アカネ科 Tapiphyllum sp.
※カツァワ(K’ats’awa):フウチョウソウ科 Boscia mossambicensis