酒が食事?!(タンザニア)

近藤 史

私がお世話になっている、タンザニア南部のンジョンベ県・ベナの人々の村には、とっても美味しい飲み物があります。それはポンベとウランジ。ポンベは、タンザニア全般で飲まれている穀物からつくった醸造酒で、コモンの名でも親しまれています。ウランジは、タンザニア南部だけで飲まれている、竹の樹液を自然発酵させたお酒です。アルコール度数をはかったことはありませんが、飲んだ感じでは、どちらもビールと同じか、低いくらいではないかと思います。つくり方は、『酒づくりの民族誌』(山本紀夫・吉田集而編著、八坂書房、1995年)に詳しく紹介されているので割愛して、ここではポンベとウランジにまつわるよもやま話をご紹介することにします。

まずはポンベ。これをベナの人々は食事を食べるように飲むことがあるので、最初はとっても驚きました。村では、ムゴーウェと呼ばれる、農繁期にお互いの農作業を手伝いあう習慣があります。この協働労働では、ある人の畑に近所の人たちがあつまって共同で作業し、次の日は別の人の畑に集まって、、、という具合にみんなの畑を順番にまわっていくのですが、畑仕事には、なんと、大量のポンベがつきものなのです。

畑でポンベをつぎ分けるママ
 

畑の持ち主は、ポンベを大量に用意して、集まってきた人々に、まず1リットルずつふるまいます。そして人々は、各自の水筒にポンベを入れて、時折それを飲んではおしゃべりしつつ、賑やかに作業をすすめていきます。そうすると、あれよあれよという間に作業が終わってしまうから不思議。最後にふたたび1リットルずつお酒をふるまわれて、みんなで輪になって談笑するのです。あるおじいさんは、お酒を飲まないで作業するよりも疲れが少ないのだと教えてくれましたが、嘘か真か。

仕事を終えて
 

でも良く考えてみると、発芽シコクビエと発芽トウモロコシの粉からつくられたポンベは、日本のにごり酒よりもずっと濃いクリーム色をしています。つまり、糖化デンプンがたっぷりのお酒、カロリーメイトの飲料+若干のアルコールといったところ。重労働をするときに、これほど効率のよいエネルギー源はないかもしれません。「ポンベはベナのガソリンだ! 」とみんなが豪語するのもうなずけますね。

さて、つぎにウランジ。青っぽいさわやかな風味、口の中でかすかにはじける炭酸、さっぱりとした後味。そしてなぜかカルピスに似た甘味。私がこれまで口にしたなかで最も気に入っているお酒です。村では、どこの家でも裏庭に竹林があり、1月から7月のあいだは朝夕そこからウランジをたくさん集めてきます。人々は、「ウランジはお酒だけれども、朝のチャイ(お茶)だ」といい、喉が渇けば飲み、知人が訪ねてくれば水やお茶のかわりにふるまいます。ふつうの竹にちょっと手を加えて樹液をあつめれば美味しい飲料になるなんて、本当に贅沢でうらやましい!

イリンガからムベヤ、ソンゲア、ムビンガを含むタンザニア南部一帯の農村でウランジは盛んにつくられていますが、ンジョンベといえばウランジ、ウランジといえばンジョンベ、というくらい、ンジョンベ産のウランジがもっとも美味しいと定評があります。おそらくウランジ生産地域のなかでも標高が高く気温が低いため、雑菌の繁殖が抑えられて、アルコール発酵と乳酸発酵が絶妙なバランスで進むのでしょう。ウランジ発祥の地もンジョンベだと言われており、ウランジはベナの人々の誇りです。

最近はイリンガの町に瓶詰め工場ができて、洒落たバーでも写真のようなウランジが登場。でも味は、村のウランジの方がはるかに美味しいです。ンジョンベを訪れる機会があれば、ぜひ、地元の酒場・キラブニでウランジを飲んでみてください。もちろんポンベもオススメです。そしてなによりも、酒場に集う人々とお酒を飲みながら盛り上がる話は本当に楽しいですよ!!

瓶詰めウランジ ”BAMBOO BEER”