アフリカのケータイ事情(タンザニア・カメルーン)

安田 章人

もはや、日本人全員がもっていると言っていいほど普及しているもの。携帯電話、いわゆるケータイである。しかし、それは日本に限ったことではない。アフリカ各国においても、携帯電話の利用層は急速に拡大し、一般的になっている。ケニアでは、あの有名な牧畜民マサイの人々もケータイを腰にぶら下げている。国によっては、地方の村でも通じるため、日本人のアフリカ研究者のなかには、日本から調査村に電話をかけ、最新の情報を伝え聞いている人もいるという。

さて、「ガラパゴス」とも揶揄される日本のケータイと、アフリカのケータイの違いはいくつかある。アフリカといっても、それぞれの国でまた違いがあると思われるので、ここでは筆者が長く滞在してきたカメルーンとタンザニアの場合と比較してみる。

まず、利用システム。日本の場合、購入した携帯電話は、その携帯電話会社でしか使えない。つまり、たとえばiPhoneはソフトバンクでしか使えず、それをドコモやauで使うことはできない。しかし、カメルーン(というか日本以外の多くの国)の場合、携帯電話に差し込まれている「SIMカード」を取り替えれば、利用する会社を乗り換えることは容易にできる。高性能なケータイには、このSIMカードを挿すスロットが2つあり、電波状況に応じて利用する会社を変えることができる。

つぎに、料金体制。日本の場合、ほとんどの人が銀行引き落としやクレジット決算など、後払いでケータイを利用している。カメルーンにも後払いのシステムは存在するらしいが、そうしている人に出会ったことはない。つまり、ほとんどの人が前払い(プリペイド)でケータイを利用している。それぞれの携帯電話会社が販売するカードを購入し、その裏にある銀紙をスクラッチし、出てきた番号を携帯に打ち込み、発信すると、クレジットをチャージすることができる。また、自分がもっているクレジットを、ほかの人のケータイに送金することもできる。アフリカの街角にはクレジットをチャージする露店があふれている。ちなみにタンザニアでは、クレジットをチャージするカードのことを「ボーチャ」と呼んでいるが、これは英語のバウチャー(voucher)からきているようだ。

最後に、携帯電話を製造している会社について。日本では東芝やパナソニック、富士通など日本の大手の電機メーカーのものがほとんどであるが、カメルーンやタンザニアで圧倒的なシェアを占めているのは、Nokiaだろう。いまでこそ、日本でいう着メロがカメルーンやタンザニアにも普及しているが、Nokiaのケータイに入っているデフォルトの着信音を、アフリカを訪れたことがある人なら一度は聞いたことがあるはずだ。みんなが同じ着信音にしていると、不便はないのだろうかと心配になってしまう。

アフリカではケータイが急速に普及しているが、僻地の村など、電波が届かない場所も当然ある。タンザニアで訪れた村では、村の中に小高い丘があり、そこでは微弱ながら電波が届くので、村の人たちの「通話スポット」になっていた。また、筆者がカメルーンで長く滞在していた村には、電波はほとんど届かず、ケータイをもっている村人は一人もいなかった。しかし、なぜか村の中にそびえるバオバブの木の下では、なんとか通話可能な電波が飛んできていた。長期滞在中、そこから日本にいる恋人に電話をかけるのがなによりの楽しみだった。その恋人は妻となり、2年前、二人で村を訪れた。二人であのバオバブに感謝したのはいうまでもない。

村の「通話スポット」@タンザニア

バオバブ電波塔?@カメルーン