タンザニアの大学進学術(タンザニア)

岩井 雪乃

タンザニアでは、さまざまな制度の柔軟性が高く、担当者の一存でいくらでも変わる可能性があります。これは、悪くいえば「いいかげん」「不公平を生む」「汚職を招く」という負の側面といえますが、うまく活用できれば「自分の可能性を広げられる」「チャンスがある社会」ともいえます。それは、「規律は変えられない」として、そこで将来をあきらめてしまう日本社会よりも、敗者復活のしやすい社会かもしれません。

「セレンゲティ・人と動物プロジェクト」で支援しているモテンバくんは、2007年秋から大学に進学しました。タンザニアでは、大学進学の仕組みも、この柔軟な制度のもとにあります。今年はもう無理だと思っていたモテンバの入学は、思わぬ幸運で実現しました。

大学の前で

まず、正規ルートの進学制度のスケジュールは、以下のようになります。
2月 高校卒業試験
5月 試験結果発表。この成績で、出願できる大学が決まる。
6−7月 志望大学への出願。面接などの試験。結果発表。
9月 大学新学期開始

モテンバの場合、7月に4つの大学に出願しました。この出願だけでも、かなりの労力と費用がかかります。まず、コピーや写真の現像ができる町で書類を作る必要があり、そこで交通費や滞在費がかかります。さらに郵送は信用できないため、タンザニアの各地にある大学に自分で申請に行かなくてはなりません。この費用をなんとか捻出して出願したモテンバでしたが、3つの大学は書類選考であえなく落選。1つの大学は面接に進むことができたのですが、なんと、面接の通知を受け取ったのが当日になってから!バスで12時間かかる試験会場には間に合いませんでした。タンザニアでは、公的な通信手段は手紙なので、地方の学生には、このような不利が生じてしまいます。

正規入学制度で失敗してしまったモテンバ。私と松田さん(雨基金によるモテンバの高校の奨学金支援者)が8月に村で会った時には、今年の進学をあきらめて、村の中の観光ホテルで働いていました。「ここで少しでも働いて来年に備える」ということでした。松田さんにとっても、20万円ほどかかる大学費用を支援するのは簡単なことではありませんので、「俺も来年のために準備しておくよ」。来年に向けて努力することを誓い、二人は別れました。

日本人の学生ボランティアの活動を手伝う (早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター「エコミュニティ・タンザニア」プロジェクト)

しかし、9月になると、モテンバから「入学できることになったので、資金を工面してくれ」との連絡が。タンザニアの経済系では名門の大学Institute of Finance Management(IFM)に入学できるというのです。財務省の直轄にあり、財務官僚を生み出している大学です。急な知らせに驚きと不審を隠せない私と松田さんでしたが、事情を聞いてみると、タンザニアらしい人脈を駆使した努力がありました。

協力していたのは、同じ村出身でダルエスの大学に通うワンブラでした(アフリックの奨学生)。彼がIFMの事務員と友人関係にあり、そこから定員に空きが出た情報を入手。そこにモテンバ入れてくれるよう頼んだのでした。

このチャンスを逃せば、来年再び多額のお金をかけて出願に奔走し、それでも入学できるかどうかはわかりません。来年は来年の新卒者も加わるので、競争はさらに激化することが見込まれます。IFMのような名門大学へ入学できる幸運は、おそらくないでしょう。松田さんと相談した上で、今年度は、松田さんとアフリックで半額ずつ支援することに決めました。

こんな顛末で、浪人せずに大学に進学できたモテンバです。ぜひ、しっかりと勉強して、村の発展、タンザニアの発展に貢献する人材になってもらいたいです。