稼ぐことを夢見る子どもたち(タンザニア)

井上 満衣

2016年からタンザニア、キゴマ州のとある村で私は、現地の小学生を対象に調査を行ってきた。タンザニアの初等教育は7年制である。2016年は小学6年生を、続く2017年は小学7年生に持ち上がった子どもたちを追跡調査している。調査当初は、教師の家にホームステイをしていたが、2017年の調査時は調査対象の子どもの家にホームステイすることになった。


写真1【教室で友人と話をする様子】

ある日の休憩時間、友人たちと話をしていたホームステイ先のMが、私のところまでやってきて、日曜日は空いているか聞いてきた。男子Mがそのようなことを聞いてくることが初めてだったので、私は何があるのか尋ねると、Mは友人3人と一緒にKaukau(カウカウ)を作るのだと答えた。カウカウとは、小麦粉を練って、薄いクレープ状にした生地を切って、油で揚げたものである。

Mの友人3人も私の調査対象であり、毎日学校で顔を合わせている。Mはその友人3人ともう一人と合わせて5人で一緒に行動することが多い。彼らは、友人のグループ形成のアンケートで、5人は自身が所属する仲間グループのメンバーとしてお互いの名前を挙げていた。

Mによると、各自が500タンザニアシリング(以下、tsh/100tsh≒5円)を持ちよって、日曜日に男子Kの家でカウカウを一緒に作ろうということだった。調査者である私もそのメンバーとして誘われたのだ。カウカウを作る人が仲間グループ5人のうち4人しかいない理由は、一人がお金を用意できなかったためだという。

彼らの計画によると、2500tshで、小麦粉と油、そして炭を購入してKの家で調理をするとうことであった。面白そうなので、私も参加することにした。

さて、子どもたち(M、K、男子S、男子R)はどのようにこの500tshを用意したのだろうか。Mは3男1女の4人兄弟の次男である。父親はコーヒーを露店で販売し、生計を立てている。父親は、6歳の三男と3歳の長女には一日100tshをお小遣いとしてあげている。なぜ幼い2人だけにお小遣いをあげるのか聞くと、「小さい子どもは我慢ができないからだ。」と答えた。ほかの家の子どもがお菓子を買うと、それを見た2人がちょうだいとせがむのである。父親はこうしたおねだりは子どもの教育に良くないと考えており、お菓子を買うお小遣いを与えていた。その一方、Mは当時12歳だったため、もう友達がお菓子を食べていても我慢できる上、何か必要なものがあれば言ってくるという。それでは、なぜMはお金を持っているのだろうか。それは、親戚のお兄ちゃんからお小遣いをもらったり、父親が時々朝ごはん代として渡すお金を、ご飯を食べずに貯めているからである。Mは母親に見つかると、お金を使われるため、ノートの間にお札を挟み、硬貨は常にポケットにいれてある。そこから500tshを用意したのだ。


写真2【Mの父親がコーヒーを売る露店】

Kは、早くに母親を亡くし、父親も2017年に亡くした。私が2016年に行った調査時、父親は寝たきりの状態であったが、2017年の1月に息を引き取った。父親は長い間寝たきりだったため、KとKの弟は、祖母、叔母、いとこ1人と暮らしていた。といっても、父親の家から徒歩3分のところであったため、頻繁に両家を行き来していた。Kの家の世帯主は叔母であり、農業での収入と親戚の支援によって生計を立てている。Kは、当時13歳で長身であった。そのため、長期休みを利用して、ブロック作りや飲み水を汲みに行き、運び、売るという力仕事をしていた。Kは、こうして自身で稼いだ500tshをもってきた。


写真3【川辺でブロック作りをする男の人たち】


写真4【乾かしているブロック】

Sは、長距離トラックの運転手である父親、アブラヤシで作った石鹸を売る母親と妹の4人家族である。Sは、特にお小遣いをもらうことはない。しかし、ラマダン(ムスリムが日中断食をするイスラーム暦の9月の約1ヶ月間)明けのお祭りの日(イード)は、ムスリムの子どもたちがお小遣いをもらえる日でもある。小学7年生は平均して2000tshほどもらっている。少ない子どもで500tsh、多い子で8000tshもらっていた。キリスト教徒の子どもはもらっていない。小学7年生は108人在籍し、そのうち94人がムスリムなので、ほとんどの子どもがもらっている。Sは、そのお小遣いを使い切っていなかったため、そこから500tsh用意したようだ。


写真5【イードでおしゃれをする子ども】

Rはというと、小学校教師の父親と仕立て屋の母親と暮らしている。2人の姉は、それぞれ中学校と高校に進み、寮生活をしている。あとは、妹と弟がいる。今回カウカウ作りをする4人のなかで唯一電気が通る家に住み、テレビもある。親戚の女の子がメイドとして一緒に暮らしている。私はMの家にホームステイしていたが、時々Rの家にも泊まりにいっていた。そのため、私はMたちにお願いされ、Rの母親に今回のカウカウ作りの話をしにいき、Rの母親からRがカウカウ作りに参加する許可をもらい、Rは今回のために特別にお小遣いをもらった。

前日の土曜日に、KとS、またKの弟がMの家を訪ね、翌日のカウカウ作りについて話し合いをした。彼らは、当日の集合時間と材料をどれくらい買うか話し合った。その際、M、KとSは各自500tsh出し合い、私に明日まで管理するように頼んだ。Rは来なかったため、私の携帯を使い、Rの母親に集合時間をRに伝えてもらうようにお願いした。

当日の朝、Mは母親に水汲みを頼まれ、集合時間の10時には間に合わなかった。そのため、KとKの弟が様子を伺いにMの家までやってきて、仕事が終わるのを待っていた。水汲みが終わったと思うと、Mは母親から買い出しなどの仕事を頼まれ、結局11時になっても終わらなかった。Kは先に家で準備するといったため、私はKにお金を渡した。Mと私は11時半ごろKの家に着いた。Kは、小麦粉、油、木炭を買い、家で木炭に火をおこしていた。まず、小麦粉500gと目分量の油と塩を混ぜ、数個に分け、丸め、延べ棒でクレープ状になるように広げる。その生地をまずフライパンで軽く焼き上げる。その生地をナイフで2、3センチほどの間隔をあけ細長く切り、紐のようになるパーツも切っていく。短冊状の生地を2枚重ね、水で溶かした小麦粉をつけ、紐のパーツで結ぶ。形を作ると、それを揚げ、カウカウの完成である。


写真6【カウカウの生地を焼くK】


写真7【カウカウを形成する私たち】

カウカウを作った経験はKしかない。そのため、Kの指示に私たちは従った。Sはカウカウの形を作っているときに、Kの家にやってきた。KはSにも作業を手伝うように伝え、4人ですべての生地を形成し終わると、Kが揚げ始めた。


写真8【揚げる前のカウカウ】


写真9【揚げているカウカウ】


写真10【完成したカウカウ】

Kが揚げ始めると、Rが遅れてきた。Rは少し恥ずかしそうに入ってくると、Kから「500tsh分売る」と言われた。Kは、カウカウを作って売ったことがあるそうだ。カウカウは一つ50tshで売れる。作り終えると、Rに10個渡し、残りはその場にいる人たちに2つずつ分け、残りは4人で分けた。Rのお金は、途中油が足りなくなり、200tsh分の買い足しように使い、残りの300tshはガムを買って4人で分けた。


写真11【カウカウは揚げるだけなので、Kの家の豆をむくR】

結局、すべての生地をカウカウにしたわけではなく、チャパティなども作ったため、2200tshでどれほどのカウカウが作れたのかは把握できなかった。しかし、Kによると、売る場合は一つの大きさを小さくし、500tshから1000tshほどの利益がでるとのことだった。彼らは、遅れてきたRを一緒に作ったメンバーとしてではなく、購入者とみなし、カウカウを10個渡していた。今回は自分たちで食べたので、販売したのはRに対してだけだが、小麦粉500gで1000tshほど利益がでるのであれば、商売は成立する。彼らは、お金が貯まったら、より多くの材料を買い、大量に作ってバスの停留所で販売したいと語っていた。親から商売方法を教えてもらうのではなく、家庭環境の異なる友人が集まり、遊び感覚で商売の方法を共有していく。このように子どもたちだけで、お金の稼ぎ方が伝わっていく姿を見ているととても逞しく感じた。将来この中から、カウカウ作りで稼ぐ子が出てくるかもしれない。