「おいしそう」な動物たち (タンザニア)

岩井 雪乃

「あー!シマウマだ!ヌーだ!」
アフリカで見ることのできる大型動物に、観光客はみな歓声をあげる。今、私のまわりにいる村人もそれは同じだ。しかし、その次に出てくる言葉が違う。
「あれは脂がのってて、うまいぞ!」

「おいしそう」なヌー

 乗り合いバスにタンザニア人とぎゅう詰めになって乗り込むと、その車窓からは、観光旅行「サファリ」とはまったく違う景色が見えてくる。セレンゲティ国立公園に隣接して暮らすイコマの人びとは、昔から野生動物を狩猟してきた人たちだ。弓矢が使えて、はじめて一人前の男になれる。そんな彼らと、町に行く途中で保護区を横切ると、やれ、どのヌーが太っていておいしそうだとか、どのゾウが畑を荒らしに行こうとしているとか、村の生活に密着した会話が尽きない。

村の「乗り合いバス」は英国製ランドローバー。定員9人に18人が乗り込む。 出発して早々に車が故障。もう一度、人を詰めなおし。

観光サファリの優雅な旅

 村人にとって動物は、ただ「見て楽しむ」だけのキレイな存在ではない。「獲物」だったり、時には「害獣」だったり、切っても切れない関係がある。狩猟が禁止された今も、食卓には野生動物の肉がのぼる。近年では、ゾウによる農作物被害が深刻になっている。「稀少な動物」として、ただ保護するだけでは済まされない関係がそこにはある。これこそが「共存」の現実だろう。先進国が理想とする「観賞対象としての共存」は、すでに分離されているという点で、実は共存とは言えないのではないか。

最近では、私も動物が「おいしそう」に見えてしまう。車の前にガゼルが飛び出してきた時、村人と一緒に「追いかけろ〜」と叫んだのは半分本気だったかな?

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日本とアフリカに暮らす人びとが、それぞれの生き方や社会のあり方を見直すきっかけをつくるNPO法人「アフリック・アフリカ」です。