タンザニアでも母は強し(タンザニア)

近藤 史

お正月編で紹介した「インゲンマメの畑」のことを覚えているだろうか?そう、天候編にも登場した「谷間の湿地につくる乾期畑」のことだ。ベナの言葉でフィユングと呼ばれるこの畑、実は、ときに「婦人の畑」と称されるほど、おもに女性がその耕作から収穫物の販売までを担っている。

フィユングから収穫されるインゲンマメや葉菜類は、日々の食卓にのぼる副食の3割以上をまかなう。さらにインゲンマメの余剰分は販売されて、その収入は、子供の学費や生活必需品の購入費など、世帯の基本的なニーズを満たすために使われる。インゲンマメの収穫期には、ダルエスサラームなどの大都市から商人たちが続々と集まり、我先にとマメを買い付けていく。婦人たちは自宅の軒先で販売交渉を繰り広げ、小さな村もこの時ばかりは賑かだ。

インゲンマメを品種ごとに分けてゴザのうえで干す。
婦人は、鞘に残ったマメがないか丁寧に確かめている

以前、畑で働く婦人たちに、「なんでフィユングは婦人の畑なの?」とたずねたことがある。答えは笑い声とともにかえってきた。「だって男達はフィユングで働かないでしょう。水をたくさん含んだ土が冷たくて、足の裏にひび割れがいっぱいできるのを怖がっているのよ。あっはっは。私たちが働かなかったら、誰が今夜のご飯におかずをつけてくれるの?」逞しいなあと感嘆してしまった。しかし、男性も乾期のあいだは出稼ぎにいったり製材業に精を出したりするので、もしかしたら何か分業のようなものがあるのかもしれない。「婦人の畑」の謎は、まだまだ検討の余地がありそうだ。

そういえば、フィユングにはこんな裏話も。ある婦人は夫が大酒飲みで、生活費に困ることもしばしば。夫が飲み代欲しさに勝手にインゲンマメを売ってしまったら、子どもたちに食べさせる分までなくなってしまう。そんな事態を恐れた彼女は名案を思いついた。「必要量だけ売ったら、のこりのマメは全ての品種を混ぜてしまおう!」商人は品種ごとにマメを買い付けるため、ミックスしてしまうと商品価値がなくなって売れないのだ。でも、自分たちで食べるぶんにはミックスだって困らないのである。どこの国でもお母さんがいちばん賢く、強いのかもしれないと実感したエピソードだった。