アフリカからの風(会報第14号[2016年度]巻頭言)

安田 章人

ご存じのように、アフリックのメンバーの多くは、ほぼ毎年アフリカ各地の調査地へ赴き、現地調査をおこなう研究者である。しかし、私は2014年2月以来、自分の調査地に行っていない。これは、私の調査地がナイジェリアと国境を接するカメルーン北部にあり、近年、イスラム過激派組織「ボコ・ハラム」の影響で、同地が外務省によって渡航自粛地帯に指定されてしまったためである。

私は、狩猟や野生動物に関する社会科学的な研究をおこなってきたため、最近は、日本国内で話題となっているイノシシやシカによる獣害問題を調査している。そして、研究の一環として、私は狩猟免許を取得し、狩猟者となった。猟期には一人で山に入り、野宿をして、獲物を探すこともする。日中、山野を歩き、野生動物を追い、発砲する。大地を歩く足の裏の感覚。獲物に気づかれないように忍び寄る緊張。硝煙の臭い。思い出すのは、いつもカメルーンでの生活のことである。

「アキトの足音が大きいから、獲物に逃げられてしまったじゃないか!」「銃の撃ち方を知ってるか?」当時、猟に連れて行ってくれた村の仲間の顔が思い浮かぶ。狩猟の際に限らず、日本にいて、どこからか流れてきた煙の臭いを嗅いでも思い出すのは、現地のことである。カメルーンでの生活経験は、もはや私という存在を形成する、重要な部分を担っているようだ。

こうした状況の中、私は2つのことに気づいた。1つは、私と同じようにアフリカから遠く「離れている」アフリック会員の気持ちである。心はいつもアフリカにあるが、もう何年も訪れていない人や、まだアフリカの大地を踏んだことはない人。そういう人たちの気持ちに重なった気がした。もう1つは、毎年アフリカに赴き、精力的に情報を発信してくれる会員の存在である。私が知らないアフリカ各地の人びとの姿、風景、出来事。羨ましい気持ちが湧き上がるとともに、この人たちが届けてくれるアフリカからの風によって、私とアフリカのつながりは、いまも生き生きとしている気がする。アフリカから遠く「離れている」会員も同じような気持ちだろうか。

カメルーン北部の渡航自粛が解除され、村を再訪することができるようになる日は来るのか、わからない。私は、新しい調査地を見つけるために、2016年には初めて南アフリカ共和国へ赴いた。来年の夏には、カメルーン南部で本格的な調査を始める予定でもある。

「アフリカと、つながりたい。つながっていたい。」と強く願うアフリックの会員のために、私はこれからも風を届ける存在になりたい。そして、様々な方法でそれを日本の隅々まで届けるアフリックの活動に、会員のみなさんと一緒に参加していきたいと思う。