初心に返って始めてみる(会報第20号[2023年度]巻頭言)

山口亮太

長かった新型コロナウイルスによる行動規制は、流行の収束と言うよりは経済的・政治的理由により世界中で終わりを迎えつつある。その是非を問うことは私にはできないが、一つだけ確かなことがある。これでようやく、アフリカに行くことができる!

2022年度は、多くのアフリック会員が、数年ぶりに自らのフィールドを訪問し、現地の人びとと旧交を温めたことと思う。かくいう私も、2019年の夏以来、3年ぶりにコンゴ民主共和国に渡航することができた。首都キンシャサは、新型コロナウィルス禍などどこ吹く風で、以前と変わらず、どこを見渡しても人と自動車で溢れかえっていた。唯一の変化は、病院や役所などの公共施設の前で、露天商が使い捨てのマスクを売るようになったことだった。そういった場所以外では、マスクを着用している人を見ることはなかった。

村の診療所の壁面に描かれた絵。左にCOVID19の文字があることからわかるように、新型コロナウイルスに対する啓発である。左には「コロナウィルスから身を守りましょう」、右には、「私は石鹸や灰を使って手を洗います」と書いてある。

いつも調査をやっている熱帯林地域で顔なじみたちと再会し、この数年の様子を聞いてみると、新型コロナウイルスの影響はほとんどなかったようだった。

深いアフリカの熱帯林が新興感染症を寄せ付けなかったのか、単に統計が機能していなかったのかはよく分からない。村の診療所には、量は少ないながらも新型コロナウイルスのワクチンが常備されていたが、使ったことはないとのことだった。

さて、肝心のフィールドワークだが、会員のみなさんはどうだっただろう?私の身の回りでは、久しぶりで興奮した、新しい調査の種になりそうなことを見つけた、やっぱりアフリカはいいなと改めて思ったなど、調査の充実ぶりがうかがえるような話をよく耳にした。私はというと、うまくいかなかった。3年ぶりの訪問ということもあって、私も所属する調査チームと地域住民たちとの団体交渉や、私自身が調査している村で個人的におこなっている支援に関する相談に多くの時間を割く必要があり、住民たちと落ち着いてゆっくり話すことができなかった。

さらに、私が調査をしている村では、この数年の間に住民間の対立が深刻化していた。以前は対立する者たち同士でも会話は交わしていたが、今ではお互いにほとんど接点を持っていないようだった。私はそんな事情は知らなかったため、従来通りどちらのグループともつきあい、話をし、調査を手伝ってもらおうとした。しかし、それがどうにもうまくいかない。私がいつもお世話になっている家族は、対立する人びとと私が話すことを嫌い、彼らを私から遠ざけた。やがて、両者は私の調査に関わる仕事や、村への支援のイニシアチブをめぐって、大げんかを始めてしまった。これでも十分、気が滅入ることだったが、最も堪えたのは私の3つ年上であり、フィールドでの兄貴分にあたる人物から、「お前が来ると、俺たちはこうやって争いごとに巻き込まれるんや。お前がおらんときは、各々が静かに生活してんのに。」と責められたことだった。その晩、一人で地元の蒸留酒を飲んでいると、情けなさや申し訳なさで、涙がこぼれた。フィールドで泣いたのは、初めてのフィールドワーク以来、13年ぶりのことだった。

その後も大小様々なトラブルが続き、その事態の収拾で調査期間は終わってしまい、帰国となった。こうして私の3年ぶりのフィールドワークは、後味の悪いものとなってしまった。10年以上のつきあいがあり、信頼関係が築けていると感じていた村で、こんなにも無力感を感じることになるとは思ってもみなかったし、自分はフィールドワークには向いていないのではないだろうかと、今さらながらに思うようになった。この一件は帰国後も後を引き、一時期は村のことを考えるのも避けるようになっていた。

こうした鬱々とした気持ちを少しだけ前向きに変えてくれたのは、かつて村の人びとが言っていたことだった。実は、以前に調査を途中で切り上げて、別の村に移ったことがあった。村長が調査の見返りとして過大な要求をするようになってしまい、大げんかの末、「もうつきあってられんわ!」と物別れに終わったためである。慌てたのは、その他の住民たちだった。私が別の村へと引き上げたあと、住民たちが村長に詰め寄ったり、なだめすかしたりしたようで、最終的には村長が折れた。

いかにも渋々といった様子の村長からお墨付きをもらって村に戻った私を待っていたのは、住民総出の慰留だった。その際に、長老格の人物から言われたことが印象に残っている。「村の人間同士でも、毎日顔をつきあわせてると、しょっちゅう揉め事は起こるもんや。俺らは、神様やない、ただの人間やからな。でもな、いつまでもいがみ合っててもしゃあない。そんなときは、また一から始めるつもりで、元の場所に戻るねん。」

確かに、3年ぶりのフィールドワークは、失敗に終わってしまった。でも、これはひょっとすると、フィールドワークのやり方や住民たちとの関係を見つめ直す切っ掛けを与えてくれたのかもしれない。揉め事も、一つ一つ、じっくりと話し合って解決を模索していけば良い。初心に返って、一からフィールドワークを始めるつもりで、少しずつやり直していけば良いのだ。

アフリック・アフリカは、2024年に20周年を迎える。その前年にあたる2023年度には、これまでの活動を振り返るような企画が準備されつつある。その第1弾として、アフリカ便りでは、過去に実施したテーマである「動詞」シリーズを、リバイバル企画として連載中である。2023年度は、会員のみなさんと共に、初心に返ったような気持ちで、これまでのアフリックの歩みと、現在の位置、そしてこれらかの活動について考えていきたい。

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