さんさんと照りつける太陽のもと、捨てられた赤い靴の中から薄緑色の小さな芽が顔をのぞかせています。ラフィアヤシの葉でふかれた集会所の屋根の上では、青い空に向かってふぞろいに、しかしまっすぐに伸びる植物たちがにぎやかに育っています。寄りそうにように並んだ小さな家の中では、柱から再び枝が伸び、天井いっぱいに葉が茂っています。森から切り出される前の木であった頃の記憶を取り戻したのでしょうか。
住居を作る女性
カメルーンの森は、植物たちのまさにこのような「壮大な野心」が満ちています。調査を始めたばかりの頃、私は植物たちのとてつもない生命力に圧倒され、いつかは自分も森にのみこまれてしまうのではないか、という錯覚に陥ったものです。バカ・ピグミーとともに森を歩くと、よじのぼらないと超えられない大きな倒木や、足や顔にまとわりつくツルにずいぶんと苦労させられました。しかし、私にとっては行く手をさえぎる厄介な植物も、バカ・ピグミーにとっては生活においてなくてはならない重要な存在だということが次第にわかってきました。
アクセサリーにもなる植物:花化粧をする少女
彼らの伝統的な住居は、細長い木とクズウコン科の大きな葉で作られます。住居に備え付けられる椅子やベッド、まな板や木臼などの調理具をはじめ、狩猟や採集などに用いられる道具のほとんどすべてが植物から作られます。また、植物はバカ・ピグミーのお腹と心を満たす食料や、さまざまな病を癒す薬となるほか、儀礼や民話などにも登場します。森の恵みを頼りに森に寄り添うように生きる彼らには、「森にのみこまれる」という感覚はないのでしょう。生命力豊かな森そのものが、彼らにとって何よりもリアルで身近な生活世界なのです。
私は土壁とラフィアヤシの葉でバカ・ピグミーが私のために作ってくれた家の周りの草を刈りながら、あるバカ・ピグミーの女性にこう話しかけたことがあります。「森から草が伸びてきて、家に入ろうとしているよ。どうして草刈をしないの?」。すると、彼女は笑いながら答えました。「私たちはそんなことをしないものだよ。草刈なんかしても草はすぐに伸びてくるんだから」と。