林 耕次
カメルーンの熱帯地域において主食や地酒の原料に用いられるキャッサバは,おかずにもなる。
定住した狩猟採集民バカ・ピグミーのことばで,この料理は“sia boma”とよばれる。sia は「削ったもの」,bomaはキャッサバを表す。この料理で使うキャッサバイモは,毒性を含まない,いわゆる,「スイートキャッサバ」を用いる。
すりおろす道具は,トタンの廃材を加工した自製の「おろし金(がね)」である。 適当な大きさのトタンを延ばして平らにして,片面から釘などを使って打ち,クレーター状の細かい凹凸をつけたものだ。それを手頃な大きさの木片に固定すると,カメルーン式おろし金(?)が完成する。
皮をむいたキャッサバをすりおろす様子は,さながら日本の大根おろしをつくっているようだ。こうしてすりおろしたキャッサバを適当な団子状にまとめ,両手でぎゅっと軽く水分を絞ったのちに,塩とトウガラシをすりつぶした調味料を加えて混ぜ合わせる。場合によっては,ヤシ油や干し魚なども加える。
これをクズウコンの葉に適当な量をのせて,巾着状にまとめる。それを蒸しあげたものが「sia boma(シア・ボマ)」とよばれるおかずである。
蒸し上がったシア・ボマは,和菓子のちまき(粽)に似ているが,主食として食べられる別のキャッサバ料理「バトン・ド・マニオク」(フランス語で「棒状のキャッサバ」の意)よりはいくらか軟らかい。食感は“もっちり”というより,“もっちゃり”という感じか。また,このシア・ボマ作りでは,粽状にせず,鍋で直接調理する場合もある。その場合は,蒸さない代わりに少しずつ水を加えながら練り上げるように,また,鍋底が焦げないように注意する必要がある。粽状のものより,いくらか水分量が多くなる傾向があるようで,どちらかといえばやや固めの「葛湯」か,あるいは軟らかめの「わらび餅」のような食感となる。
肝心の味だが,シンプルな味付けで,つぶし入れた青トウガラシの清々しい辛みと塩分が際立つ。
バカ・ピグミーの日常食では,農作物を使ったシンプルな料理が多いが,このシア・ボマもそのひとつとして数えられるだろう。肉や魚を使った料理に比べて粗末なおかずとしてみられがちだが,私は,この素朴なシア・ボマの味と食感が好きで,つくっている現場に遭遇すると,ついついお裾分けをしてもらうのです。