村の先端医療(カメルーン)

安田 章人

その日の朝、モジボ(mojibo)と呼ばれる村の伝統医の家に人が集まっていた。どうやら、隣の村から腹痛を訴える男性がやってきたらしい。初老の伝統医は家を離れると、しばらくしてなにかの植物とニワトリを手に戻ってきた。その植物を潰し、その汁をニワトリに飲ませた。そして、おもむろに患者の腹にニワトリの腹を押し付けた。初めは暴れていたニワトリもやがて首をだらりと垂らし、動かなくなってしまった。あの植物は毒草だったのだ。しばらくしてから、ニワトリを患者の腹から離し、伝統医はカミソリでニワトリの腹を裂いた。そして患者に見せないように、ニワトリの腸を指差し、彼の家族になにやら説明をしていた。私の横にいた村人に「なにをしているんだ?」と尋ねると、「病状を説明しているんだ。レントゲンだよ。」と答えた。つまり、人の患部をニワトリに投影して解剖することで、患者を傷つけずに病状を診断するというものであった。


村のニワトリ。重要な食糧、財産、そして「医療機器」でもある
 

いつからこの方法が村にあるかはわからないが、もしかしたら人類ではじめてX線を発見したのは、モジボかもしれない…。