「不屈のライオン」の住処(カメルーン)

安田 章人

日本から直線距離でも1万2千キロ。長旅を終え、カメルーン北部の小さな村に到着する。これで、2回目の訪問だ。自分がお世話になる家の前には、たくさんの子供たちが集まっている。その笑顔には、「お土産は何かなぁ・・・」という期待が満ちあふれている。しかし、その思いを必死に隠そうとしているところがまた、愛くるしい。

スーツケースからあるものを取り出し、窓から子供たちに見せる。その瞬間、悲鳴ともとれるような子供たちの歓声があがった。

「ボールだ!!アキトがボールを持ってきた!!!しかも、『タンゴ』だ!」

この地域でサッカーボールと言えば、中国製のゴムマリのようなボールである。1枚の薄っぺらいゴムでできているので、木の枝なんかにあたると、すぐダメになってしまう。タンゴとは、我々が知っている、いわゆるサッカーボール(アディダスが出している商品名らしい)のことで、人工皮革を縫製してできている。そのタンゴに空気を入れ、一番の年長の子供に渡すと、みんなですぐに学校の前で蹴り出した。チームなんかつくらずに、とにかくボールを追いかけ、蹴ることをみんなが楽しんでいる。「持ってきてよかった」本当にそう思った。

しかし、しばらくすると子供たちは蹴るのをやめてしまった。「どうしたの?」と聞くと、「足が痛い!」と答えた。普段、裸足でゴム製のボールを蹴っている彼らにとって、タンゴは固かったらしい。空気を少し抜いてあげると、また元気にボールを追いかけ回し始めた。

しかし、数週間すると、またボールを蹴る子供たちの姿がなくなった。

「今度はどうした?」

「破れた…。」

「破れた!?」

サッカーボールを触ったことがある人ならわかるように、サッカーボールは、使っていくうちに表面はボロボロになっても、なかなか破れないものである。しかし、数週間で、ぺしゃんこにするとは。さすが「不屈のライオン」の子供たちである。

Jリーグのガンバ大阪で「浪速の黒豹」と呼ばれたパトリック・エムボマ、スペインやイタリアのサッカーリーグで活躍するサミュエル・エトォ・フィス、さらには2002年の日韓ワールドカップでの中津江村。おそらく、カメルーンと聞けば、サッカーを連想する人は多いと思う。そのサッカー・カメルーン代表の選手たちは、「不屈のライオン」と呼ばれている。これは、同国の代表のシンボルが、ライオンであるためである。ちなみに、他のアフリカ諸国でも、野生動物がシンボルや選手の愛称になっている。たとえば、コートジボアール代表はエレファンツ、ナイジェリアはスーパーイーグルスなど。

そして、ご存じのように、いよいよ今月に開幕するワールドカップ南アフリカ大会で、日本は初戦にカメルーンと対戦する。日本では、先月の韓国との壮行試合の惨敗により、沈滞ムード?であるが、もちろんカメルーンの人々は盛り上がっている。

「絶対勝ってやるからな!」

「もちろん、ここでみんな応援するわよ!あんたも来るでしょ!?」

上は、カメルーンから、わざわざ国際電話をかけてきた首都に住む友人。下は、池袋にあるカメルーン料理屋を切り盛りしていた、4ヶ月前に来日したというカメルーン人のお姉さん。二人とも、すでに戦闘モードである。池袋のカメルーン料理屋の壁には、試合日程を書いた紙や、カメルーン代表の写真、ユニフォーム、そして、真新しい薄型テレビがかけられていた。

私は、11月ごろにカメルーンを訪れる予定である。その頃、村や首都の友人たちは、どう切り出すだろうか。
「日本は弱かったなぁ!だから言ったろ!?俺たちが勝つって!!」
「日本には負けたよ。でも、エトォが万全じゃなかったんだよ。次は絶対に勝つよ!」
結果がどうなるにしろ、友人たちとワールドカップの話題で盛り上がるのは、楽しみである。お互いの健闘をたたえられるような素晴らしい試合になることを願ってやまない。

そして、もう1つの楽しみがある。次回の渡航では、村の子供たちにタンゴだけでなく、スパイクも届けたいと思う。これで、村から第2、第3のエトォが誕生し、将来、日本を脅かすことになっても、ご容赦願いたい。

エトォに憧れている村の子供たち

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日本とアフリカに暮らす人びとが、それぞれの生き方や社会のあり方を見直すきっかけをつくるNPO法人「アフリック・アフリカ」です。