ダンスが生み出す女たちの絆(ボツワナ)

丸山 淳子

夕刻、女性たちがスカートをたくし上げ、豊かなおしりを見せながら、踊りだす。この家の少女が初潮を迎えたことを祝って、古くからブッシュマンのあいだに伝わる「エランド・ダンス」が始まった。エランドはカラハリに生息するウシ科の大型草食動物で、その脂肪に富んだ様子から、豊穣と多産を象徴するといわれる。そのエランドの群れを模して、老女から年若い女性までが集い、少女が横たわる小屋の周りを、列をなして踊るのである。

エランド・ダンスをもりあげる歌声と手拍子。老いも若きも、折り重なる歌声に酔いしれる。

とはいえ、その舞台は、かつてのような、カラハリの原野に点在するキャンプではない。街路に面して区画された居住用プロットに、1500人ものブッシュマンが集住する定住地だ。家々の密集するこの定住地で、「エランド・ダンス」の歌声が響きはじめると、男性たちは、なるべくそこへ近づかないように気をつかう。一方、女性たちはご近所どうし誘い合って、賑やかに出かけていく。男性のいないこの場で、日頃はつつしみ深い彼女たちも、このときとばかりに自慢のおしりを披露する。そして、誰のおしりが豊満だの、美しいだのと互いに評価し合い、連日、大騒ぎをするのである。

様々な地域から定住地に集められた、様々な世代の女性たちは、日常生活においてそれほどつきあいがあるわけではない。かつてない集住状況のなか、とりわけ女性たちは、むしろ以前から親しい身近な人々に限って交流をもつ傾向にさえある。さらに、従来の狩猟採集生活になじみのある老人と、都市の学校を卒業した若者のあいだには深い世代間ギャップも生まれつつある。そんななかで「エランド・ダンス」は、出身地や年齢をこえて、おしりを見せ合いながら女性どうしの新しい関係を築く、貴重な場になりつつある。

「私たちの踊りって、飛行機から見えちゃうのかい?」さっきからずっと気になっていた、という様子でおばあちゃんが上空を指さし、若い女性に尋ねた。飛行機に乗ってヨーロッパに行ったことのある彼女は、「じゃぁ、見せてやりましょ」といって威勢よくスカートをまくり上げ、踊りの輪に飛び込んだ。華やかな嬌声があがり、やがて日が沈むまで「エランド・ダンス」は続く。