ふたつの世界で次世代を育てる(ウガンダ)

浅田 静香

2017年夏、私はアメリカ東海岸の街ボルティモアを訪ねた。調査地ウガンダでお世話になっている家族の親戚がアメリカに住んでいると聞き、ステイ先の人より紹介してもらったのだ。赤道直下で緑のバナナ畑と赤い土が広がるウガンダとは気候も景色も異なるアメリカで、ウガンダ人がどのような生活を送っているのか、私は単純に興味を覚えた。

訪ねたスエディさん一家は、父、母、小学生の3人の子に、母親の妹の6人家族だ。母タウシさんが私のウガンダでのステイ先の従姉にあたる。両親は二人ともウガンダで育ち、アメリカで出会って結婚したという。3人の子どもたちは全員アメリカで生まれた。大人たちは家庭内でガンダ語を話しており、子どもたちはガンダ語を聞いて理解はできるが話せない。子どもたちはクセのない英語を話し、アニメやゲームが好き。水泳や体操、ピアノなどお稽古も習っている。ウガンダで普段いっしょに過ごす子どもたちが、庭や家の中を走り回る姿と対照的な印象を受けた。

私がスエディさん宅に到着してすぐ、母タウシさんは私のウガンダのステイ先へ私が無事に着いたと連絡してくれた。文字だけでなく、写真にボイスメッセージ付き。数時間後、ウガンダのステイ先から電話がかかってきた。キャッチフォンで通話するので、こちらはタウシさんや家族、私の声がウガンダへ向けて発せられる。ウガンダから届いた声は、私が今まで聞いた中でもっともテンションが高かった。

スエディさん一家では、毎日のようにウガンダ料理を作って食べている。主食用バナナなどの食材はアジア人やラテンアメリカ人向けのスーパーで購入でき、私もバナナやキャッサバ、ウガリに鶏肉やヤギ肉のソースをご馳走になった(写真)。子どもたちもウガンダ料理を食べ、長男はバナナにランチドレッシング(注)をかけていた。ウガンダ料理以外を食べないということもなく、毎週金曜日は子どもたちが心待ちにしている「ピザの日」なんだそう。食材は手に入るが、「ウガンダで食べるウガンダ料理のほうが断然おいしい!」と両親は言う。ウガリやキャッサバは味の違いがわからず、ソースはこれでもおいしいけれど、言われてみると確かにウガンダで普段食べているものに比べて一味足りないというか、コクのような何かが足りない気がした。

写真 スエディ家の食事

タウシさんは、母国ウガンダを中心としたアフリカ4か国で、妊婦や新生児、成人前の子どもを対象とした医療・保健面の支援を展開している。Childbirth Survival International (以下CSI)という国際NPOを2013年に立ち上げ、妊娠・出産時に適切な医療が受けられるように、また妊娠・出産に関する正しい情報を学べるよう、各地で活動を展開している。webサイト上で寄付金を募っているが、大きなスポンサーがいない現時点では、活動資金の多くはタウシさんの給与の一部でまかなわれている。生活を極限まで切り詰めているわけではないが、スーパーでつい買ってしまうお菓子や子どものおもちゃなど、ちょっとしたものを節約することで活動資金を確保しているという。5ドルや10ドルでも、物価の違うアフリカでは貴重な活動資金となる。

毎朝のように、タウシさんはアフリカ各国のCSIのコーディネーターに電話をかけ、進捗を確認する。WhatsAppというSNSで通話をすることで、双方の通信費を安く抑えることができる。子どもたちの学校への送迎中にアフリカの人と通話することもあり、車に設置したキャッチフォンで話すため、そのような日は通話の最後に子どもたちが現地のコーディネーターへ挨拶をすることになる。ウガンダのコーディネーターは私のステイ先の家主。現地での実際の活動は彼女を中心に4~5人で企画、実施される。彼女自身もウガンダで3人の乳幼児を育てる母親だ。

ウガンダの乳幼児死亡率は1000人中38人であり、アメリカの6人、日本の2人と比べて圧倒的に多い(World Bank 2016)。タウシさんは、病院での治療も重要だが、母や将来母となる女子たちが正しい知識を身につけていれば、大事になって病院に駆け込む前の段階で病気や不慮の事故を防ぐことができると語る。アメリカで3人の子どもを出産し、母国の産婦人科の現状をよく知っている彼女だからこそ、CSIの活動に対する情熱に満ちている。

スエディさんの長男と長女は小さいころに一度だけウガンダへ行ったことがある。長女は乳飲み子だったため当時ことは覚えていない。長男に「ウガンダはどうだった?」と尋ねると「楽しかったよ」と言っていた。タウシさん自身も数年に一度の頻度で帰国しているが、CSIの活動には現地在住のメンバーに動いてもらっている。

現在住むアメリカで次の世代を育てながら、出身国や周辺国で次の世代の支援をする。母国の味を思い出し、子どもたちに母国の味を教えながら、熱意をもって活動に勤しむタウシさんの姿に、子どもたちもきっと影響を受けているだろうと感じた。自分が生まれ育った国と生活スタイルや言語が違う国でも、決してそう遠くはない場所として認識しているのだろう。今後のタウシさんの活躍と子どもたちの成長を楽しみに、また彼女らを訪ねたいと感じた。

注:バターミルク、サワークリーム、ヨーグルト、マヨネーズ、ガーリックパウダーや香辛料、調味料から作られるドレッシング。アメリカでもっともポピュラーなドレッシングとなっている。

参考文献・webサイト

World Bank (2016) World Development Indicators. World Bank.

Chirldbirth Survival Internationalのwebサイト:http://www.childbirthsurvivalinternational.org/index.html

Twitter:https://twitter.com/TausiSuedi