美しさを引き出す伝統衣装(ウガンダ)

浅田 静香

ウガンダ中央部に住む民族ガンダの女性の伝統衣装は「ゴメス(ggomesi)」と呼ばれる。角ばった袖で長い裾のワンピースにゆったりと帯を巻くのが特徴的だ。柄が入った色とりどりのサテンの生地で仕立てたゴメスは、お祝い事や冠婚葬礼など特別な日に着られる。綿で作られたゴメスは普段着として、年配の女性によく着られている。

豹柄のゴメスでドレスアップした女性

 

ブラウスやTシャツ、ジーンズ、スカートなど、日本でわれわれが日常的に着ている服は、私が調査をしているウガンダの首都カンパラでも一般的に着られている。その他、チテンジと呼ばれるアフリカンプリントのスカートやドレスを着ている女性もよく見られる。もともとウガンダでは、丈の短いボトムスはおろか、脚のラインを出すズボンでさえ女性が履くことはタブー視されていたと人びとは語るが、今ではおかまいなし。2014年には反ポルノ法の一部にミニスカートを禁止するという文章が入ったことで物議を醸した時期があったが、今や若い女性が膝上丈のスカートやショートパンツを履いている姿をよく目にするようになった。

服屋が2階に連なるカンパラのダウンタウン

 

初めて私がカンパラを訪れたとき、街ゆく人びとの格好の中で一際目を引いたのがロボットもののアニメに出てくるような袖のゴメスを着た女性たちだった。第一印象は「なんだあの袖…」とあまり好ましくなかったことを告白したい。
ゴメスはゆったりと着る。ゴメスの下にはチコイと呼ばれる大判の布を巻き、ウエストの位置を紐で縛ったら上半身にかかっている部分を折り返す。こうすることで、パニエのようにスカート部分をふんわりさせる効果が出る。ゴメスの帯は骨盤に乗せるような位置に留まるようゆったりと巻き、体の前で縛る。生地は横に長く出ている部分があり、ここを段々になるよう折って左胸の前のボタンの下で留め、その上に帯がくるように巻く。 ウガンダで調査を開始した当初は、このゴメスの良さがさっぱりわからなかった。袖の形がどう頑張ってもロボットにしか見えなかったし、ゆったりと着るのが着物を着崩したみたいだった。柄の入った生地の上から帯で縛るところが日本の着物に似ていたせいもあるのだろう。実際に、帯が落ちそうなのを抑えながら歩く人や、左胸のボタンの下がはだけてしまっている人を目撃してしまい、思わず目を覆いたくなったこともあった。

そんななか、私は18〜30歳の若者向けの4日間の研修に参加する機会を得た。ウガンダじゅうから若者が集まり、地方の全寮制の学校の宿泊施設を貸し切って泊りがけで研修を受ける。研修では日中は講演を聴いたりディスカッションしたりするが、毎晩ドレスコードのあるディナーが開催されていた。2日目の晩のドレスコードは「伝統衣装」。ディナーパーティーが始まると、国や地域ごとにドレスアップした若者たちが次々と壇上へ上がっていった。就寝時用のマサイブランケットを普段着の上から巻いた人びとや、モスクでの礼拝用のムスリム着を来た人たちの次に登場したのは、ゴメス姿の若い女性たちだった。

ガンダの民族衣装で着飾った若者たち

 

満月の光に照らされ、色とりどりのゴメスがキラキラと映えて見え、私は思わずはっと息をのんだ。普段はジーンズやTシャツを着ている彼女たちがこのとき、すごく華やかに、輝いて見えた。それまで正直ダサいと思っていたゴメスが、この瞬間にキレイだと強く感じたことを今でも鮮明に覚えている。
そうか、伝統衣装はその地域の人びとの美しさをもっとも際立たせるものなのか!角ばった袖も締まりのない帯も、ガンダ女性の魅力を最大限に引き出すために、長い時間をかけてこの地域に発達したものなのだろうということに、このときようやく気づいた。

それから数年が経ち、私もウガンダで友人の結婚式に呼ばれ、自分のゴメスを仕立ててもらうようになった。ゴメスを着た自分の姿を鏡で見ても、どうもしっくりこない(現地の友人は褒めてくれるけれど)。ここの若い女性たちのようにゴメスを着こなせる日はまだまだ遠いが、ロボットのような袖のゴメスは今ではお気に入りの一着となっている。

筆者が仕立ててもらったゴメス