さらにアフリックを知ってもらうために(会報第10号 [2012年度] 巻頭言)

目黒 紀夫

今の日本では、アフリカの情報が身近に溢れている。そうしたなかで、これからさらにアフリックが活動を拡げていくためには、具体的な取り組みを充実させるだけでなく、より多くの人に知ってもらって支えてもらうことが必要だと思う。そのためにやるべきことはいろいろ考えられると思うのだけれども、自分自身の反省として最近に思っているのは、まずはもっと情報発信に意識的になろうということだ。

最近のメディアでアフリカが取り上げられるとき、その現場や問題に実際にかかわっている日本人が登場することが多い。それはアフリカを専門的に研究している「学者」というよりも、紛争の現場で働く国際的な組織の「プ ロフェッショナル」や世界市場に売るための商品を現地の人たちと一緒につくろうとする「ビジネスマン」、あるいは、好奇心のままに現地に飛び込んでやりたいことをやっている学生やボランティアなどの「普通の日本人」であることが多い。そういう人びとを取材したテレビ番組を見ては、いつかアフリックの「セレンゲティ・人と動物のプロジェクト」も取材を受けられたらいいなあとわたしは思ったりしていた。ただ、そのために何をすればいいのかは分からないので、まずは現地における活動をがんばり、いつか来るであろう取材を待つという感じだった。

そのいっぽうで、アフリカが身近なものになってきて いるのではないかと思う理由として、実習やスタディー ツアーのようなかたちで大学の教員がアフリカに学生 を引率して連れていく機会だったり、個人的な旅行やボ ランティア活動としてアフリカを訪れる学生の数だった りが増えているように感じられるということがある。絶対数としてはまだまだ少ないのかもしれないけれど、アフリカに興味をもつ学生の数は増えているような気がする。実際、わたしも数年前から、学生と一緒にタンザニアのセレンゲティに行くようになっている。そして、わたしがあらためて情報発信について考えさせられるようになったのは、そうして最近の学生と接するなかからだった。

今年の夏に一緒に渡航した学生の多くはスマートフォンをもっており、Facebook のようなソーシャル・ネットワーキング・サービスを日常的に利用していた。そして、ある学生はタンザニアに滞在中、ソーシャル・ネットワーキング・サービスを通じてその日に取ったばかりの写真を世界中の友人にむけて発信し、数日前に友人として登録したばかりのタンザニア人もふくめた何人もの人間から「いいね!」という反応をもらっていた。それを見て、あらためてソーシャル・ネットワーキング・サービス(およびスマートフォン)の力を思い知らされた。それをうまく使うことで、日本のより多くの人にアフリックの活動を知ってもらうだけでなく、日本とアフリカのあいだでも何か新しい交流や取り組みをはじめられたりしないだろうかと思いもした。

わたしは日本でもアフリカでもいわゆるガラケーを使っており、スマートフォンをもっているアフリカ人の友人からは「そんな古い携帯電話、博物館にでも置いてこいよ」といわれたりもする。ガラケーにこだわりがないといえば嘘になる。ただ、スマートフォンをもたないことを理由に、日本でもアフリカでも多くの人が利用しているソーシャル・ネットワーキング・サービスのことを無視してきたのは、たんにその可能性を無視していたというだけでなく、それもふくめて今現在どういう情報発信のやり方があるのかをちゃんと考えてこなかったという点で良くなかったのだと思う。とりあえず、まだ、スマートフォンをもつ気にはなれないけれど、でも、テレビ局の取材を一方的に待つのではなくて、情報発信のやり方についてはもっといろいろなやり方がないのか模索していこうと思う。