西アフリカの髪結事情(ガーナ)

織田 雪世

美にかける情熱は、国境をとわない。幼いころ、母親の美容院通いにつき合わされて閉口した。なぜ何時間も費やしてパーマをかけるのだろう。でも、気がつけば自分もそれと同じことをしている。そして、はるか海をへだてた西アフリカ・ガーナ共和国でも、似たような情景が展開されている。

ストレート・パーマ

都会にすむアフリカ女性なら、いまや髪に一種のストレート・パーマをかけるのが常識だ。パーマでのばせば、コイルのように固く巻いてのびる髪も楽にとかすことができるし、どんな髪型だってすることができる。
パーマ用のクリームは強いアルカリ性で、髪をいためたり肌に炎症をおこしたりと、トラブルは後をたたない。けれど女たるもの、それにひるんでなんかいられない。美容師は講習会をひらき、正しいパーマのかけ方を学びあう。

サロンへ行くのは週1回

ガーナでは、街のいたる所でヘアサロンをみかける。なぜそんなに多いのだろうか。
ガーナ人の髪はストレート・パーマをかけると、まっすぐ針金のようにつっ立ってしまう。「まともな」ヘアスタイルにしたければ、シャンプーのたびに髪にカーラーを巻き、ポマードをたっぷり使ってセットしなければならない。そのため女性はじぶんで髪を洗わず、毎週サロンへ通う。サロンの必要度は高いのだ。
サロンスタッフの多くは若い女性。見ずしらずの客をも巻きこんで、女だけのおしゃべりに花が咲く。サロンはもっとも身近な社交場だ。

ヘアケア天国

お店の棚にずらりと並ぶのは、パーマ剤やポマードなどのヘアケア製品。
アフリカ系の人びとを対象にしたパーマは、髪質のちがいを目印に差別されてきたアメリカ黒人の間で生まれ、いまではアフリカ大陸に進出している。その立役者は、ロレアル系やユニリーバ系などの大会社だ。看板、新聞広告、テレビCMにキャンペーン。コマーシャルは女性を誘惑して離さない。
しかも一度パーマをかけた女性は、新しく髪がのびてくるたび、生えぎわに再パーマをかけなければならず、このサイクルから抜けられない。放っておけばヘアスタイルがうまく決まらないし、生えぎわと毛先で櫛のとおり具合がちがうため、弱い毛先がどんどん傷んでしまう。
パーマの魅力は、アリジコク的な魔力とも背中あわせだ。

ヘアスタイル自由自在

パーマをかけた髪は、毛糸のようにやわらかくて、かんたんに形をつけることができる。これに人工のつけ毛を組みあわせれば、髪型のもつ可能性は無限大だ。
ヘアスプレーやジェルを駆使しつつ、あでやかな独創性が花ひらく。
写真は、ヘアケア製品の大会社によって開催されたヘアスタイル・コンテストの1コマ。優勝した美容師は西アフリカ大会をへて、南アフリカ共和国でひらかれるアフリカ大会へと進む。

マーケットの片すみで

「あの髪型がいいわ。」
マーケットの喧騒をよそに、階段下にすわりこんで髪を結う。髪結い師(写真右)は小さなイスに腰かけ、客の女性(同中央)が持ちこんだつけ毛をすこしずつ地毛に足しながら、無数の3つ編みに結っていく。髪型によっては完成に数時間から2日もかかるため、髪結い師にも客にも、ともに根気と忍耐が必要だ。ただし、できあがった髪型は2〜3ヶ月も保ち、その間はサロンへ行く必要もない。
このような髪結いは、かつては友人どうしで日がな一日かけて行う、親密な作業だった。そんな昔がふと脳裏にうかぶような光景。

注)このエッセイは、「アフリカ便り」の前身である「アフリカ情報」のコーナーに、2003年〜2004年に掲載されたものを再録しました。

ABOUTこの記事をかいた人

日本とアフリカに暮らす人びとが、それぞれの生き方や社会のあり方を見直すきっかけをつくるNPO法人「アフリック・アフリカ」です。