ザンビアの西側は、とにかく砂が深い。いくらトヨタのランドクルーザーでも、はまってしまえばひとたまりもない。歩くのにも不便だ。足がとられる。ザンビアで暮らし始めてばかりの頃、砂の上の歩き方を知らない私の姿がまるで「アヒル」のようだと、村の人によく笑われたものである。そんな場所であるから、自転車なんてとても乗れない。
それでも年間降水量が800ミリあるせいか、この地域には疎らに樹木が生える林が発達している。季節は雨季と乾季にわかれていて、雨は4ヶ月しかない雨季に集中する。乾季の林はことさら見通しがいい。
乾季は草が枯れている。地面の白い砂が強い日差しを反射してまぶしい
しかし雨季が近づくと、雨が降り始める前に葉が展葉してくる。このときの葉は、薄い赤色をしている。それまで白い砂と茶色い枝ばかりが目に映っていた林は、突然違う世界に変化する。
雨季を迎えた林。林床には草やきのこが生育しはじめる。
雨季は草が繁茂して、地表面を覆い隠す。ヤギや牛にとっては食べ物が豊富になる季節だ
私が一緒にすごした人びとにとって、初めての雨の翌日は“リジラ”とよばれる「休日」となる。村で一番働き者のお母さんも、畑仕事にはいかない。「リジラの日に畑にいったら病気になるっていうのよ」としかたなさそうに庭を掃いている。「でもこれからトウモロコシの種を播いて、除草もしなきゃならなくなる。じきにムジルワ(雨の降り続く状態)に入るからキノコだってとりにいかなきゃなんないし、さあ忙しくなるよ。」
一晩でおこった変化に、私はそれまで暮らしていた砂の世界を違う目で見るようになった。栄養もなにもないとおもっていた砂の世界に秘められた、内なる力を見た気がしたし、繊細でかつダイナミックという二面性をもって季節の変わり目を写す、この地域の自然の魅力に触れたようにも思った。「日本には四季があるけど、ザンビアには二つの季節しかない」季節の数は違っても、移ろいをみせる自然の営みやその節目を意識して暮らす人びとに触れると、地球の傾きも二つの国に横たわる1万キロ以上の距離さえも、まるで感じなくなっていくのである。