コーヒー生産者とコーヒーの関係(タンザニア)

黒崎 龍悟

タンザニアでは紅茶とコーヒーが盛んに生産されているが、多くの人がたっぷりと砂糖を入れた紅茶(チャイ)を飲んでいて、コーヒーが飲まれることはあまりない。国内を移動する際の中継地点となるホテルの朝食などでは、紅茶と並んでインスタントコーヒーが置かれているのを目にするが、地方に行くほどコーヒーを見かける機会は少ない※。

地平線まで広がる茶畑
 

長年タンザニアのコーヒーを栽培する農村に通っているが、コーヒーを飲む機会はほとんどない。お世話になっている家では、コーヒー豆を少量貯蔵しておいて、ごくまれに紅茶の茶葉がなくなった時に代用で出してくれるぐらいである。

コーヒー豆は、コーヒーの種であって、収穫時は、「コーヒーチェリー」と呼ばれるようにさくらんぼのような果肉につつまれている。これを取ると、中からおなじみのコーヒー豆の原型が出てくる。これを乾燥させ、内果皮という薄い皮を取ることではじめて焙煎できて、あの黒いコーヒー豆になる。もちろん、各家庭に専用の道具があるわけではないので、臼と杵で内果皮を取って、それを鍋で煎って、そしてまた臼と杵で粉にし、鍋で煮だして濾して、出してくれる。大変な労力である。そうしてだされたコーヒーは、紅茶の代用といえども、私にとっては「本場のコーヒー」として貴重なものだった。

熟したコーヒーの実を摘む
 

数年前、別の村に行ったところ、コーヒーを好んで飲む村人の集団に出会った。たまたま朝早く用事があってある家を訪ねたら、そこの主がコーヒーを鍋で煮出している場面に遭遇した。この人は自分で焙煎して粉にしておいたものを、ポリ容器に保存しているのである。コーヒーの鍋をかけたかまどのまわりは、近所の男衆が集まって、今日はどこにヤギを繋ぐだとか、昨日何があったのかなどの情報を交換するサロンのようになっている。紅茶は砂糖なしでは飲めないが、コーヒーは砂糖なしで飲める。だから砂糖が買えなくなった時に備えて体を慣らしておくとか、コーヒーは体を丈夫にするなどとコーヒーを飲む理由を説明してくれた。コーヒー原産国エチオピアのコーヒー・セレモニーとまではいかないが、私はそこによくお邪魔して、いろいろな情報を得られる「コーヒー・ブレイク」を楽しんでいた。

まだはっきりしていないが、コーヒーを飲んでいる人たちはどうも他にもいるようである。お世話になっている家で頻繁にコーヒーが出てこないのは、私が紅茶の茶葉を切らさないように買っていくことも影響しているのだろう。一年の内で収入がなく、茶葉や砂糖を買えない時期などは、多くの世帯でコーヒーを飲んでいるのかもしれない。あるいは、このかまどに集まる男たちが言うように、コーヒーが少しずつ嗜好品として浸透してきていると考えることもできるだろうか。

コーヒーの生豆をわけてもらうことがあるので、自分で焙煎してみるがなかなかうまくいかない。煎り具合が均一にならないし、時間もかかる。フライパンよりも金網状の容器で煎る方が早いだろうと煎っていたら、火に近づけすぎて豆が炎上してしまったこともある。彼らがどのように焙煎しているのか、何かコツがあるのか、そもそも本当にコーヒーが好きなのかどうか、またかまどを囲みながらいろいろと話したいと思っている。

※アラブ系の人が多い都市の街角などでは小さなカップでコーヒーを飲む風景も見られるが、タンザニアの家庭でコーヒーを飲むことは一般的ではない。