紙おむつ騒動

善積 実希

まだうんちはしてないなあ。
便秘かな?大丈夫かな?

わたしの頭のなかはいつも息子のうんちとおしっこのことでいっぱいだ。家族のあいだでも、息子の排泄状態の情報交換は欠かせない。そんなとき

紙おむつが売っていない!
お尻拭きも手に入らない!?

というニュースを耳にした。紙おむつがなければ布おむつ?布おむつも手に入らなったら?…とっさにわたしは紙おむつの代用になるものを調べた。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、マスク不足が問題になり、ティッシュペーパーやトイレットペーパーなどの紙製品の買い占めが問題となった。そして、紙おむつやお尻拭きまでも品薄になった。息子は紙おむつを使っている。まだトイレトレーニングを始めていないため、紙おむつにはまだまだお世話になるつもりでいた。そんなときに出回った「紙おむつ品薄」という情報。母として、息子のサニテーションを維持するためにできることを必死で考えた。

そんなときにふと思い出したのが、ケニアのとある障害者支援施設で働く一人のママだった。彼女はこの施設で10年以上働いており、施設の掃除から子どものケアまですべてこなすベテランのスタッフだ。親しみをこめて彼女のことを「ママ」と呼ぶ子どももいて、私も彼女を「ママ」と呼んでいる。彼女は子どもの様子から彼らの出身地や家庭状況までも把握している。だからこそ、子どもが必要とするケアをきちんと理解していた。

あるとき、施設に紙おむつの在庫がない状態が続き、ママは子どもの排泄介助に苦労していた。子どもが紙おむつをせずに下着に排泄をすると、下着の交換から子どもの清拭、そして下着の洗濯までもしないといけない。

子どもがうんちをする→ママが子供の下着を脱がせて体を洗う→新しい下着をはかせる→汚れた下着を洗う

このルーティンが一日に何度も繰り返される。当時は雨季だったため、洗濯した下着もなかなか乾かない。すぐに下着の替えもなくなり、下着の代わりに布を使うことになった。布がなくなると、子どもが下半身に身に付けるものが無くなった。このとき、ママはひらめいた。施設にあった木製のいすを集めてきて、子どものポータブルトイレを作ることにした*。彼女のアイディアは、いすに穴を開けてその下に受け皿をおくというものだ。子どもがいすにすわって用を足すと、汚物はすべて受け皿に入るというものだ。結果、子どもは完成したポータブルトイレを使って用を足すようになり、ママの排泄介助の負担は軽減された。完成に至るまでには試行錯誤を重ねることになったが、彼女のアイディアと行動力にわたしはとても感銘を受けた。

到底、わたしにはママのようなアイディアも行動力もなく、スーパーやドラッグストアに駆け込んで紙おむつの在庫を確認することしかできなかった。今回の紙おむつ騒動をきっかけに、母として息子のサニテーションを守る責任とその手段を再確認することができた。

ママのアイディアで作られたポータブルトイレ

* 詳細は『アジア・アフリカ地域研究』第19-1号にある「介助現場のフィールドワークからみる脳性麻痺児を対象とした排泄介助の工夫」(pp. 93-97)に書き留めた。下記URLからPDFファイルをダウンロードできます。

URL
https://www.asafas.kyoto-u.ac.jp/dl/publications/no_1901/AA1901-05_FN.pdf