「新米」主婦とごはんの悩み(ガーナ)

織田 雪世

 「そんなの、やりすぎだよー」

友人たちが言った。ガーナでの仕事を終え、単身赴任先の首都アクラから夫の待つ東京へ帰って1ヶ月後のことだ。遅ればせながらの「新婚」生活はとても楽しいけれど、家事能力のあまりない私にとって、仕事との両立は楽とはいえない。食卓に並べるおかずの品数をそろえるのにも、毎日大汗をかいている。そんな訳でつい愚痴をもらしたら、逆に張り切り過ぎだと笑われてしまった。

「毎日、何品も作らなくてもいいよ。インスタントだっていいよ」

 

夫も言ってくれる。私がときどき疲れて不機嫌な顔をしているからかもしれない。でもそれに甘えてはいけない気がして、やっぱり手作りのものを食べさせてあげたいよね、と、ふうふう言いながらスーパーへ行く。思い出すのは実家の母の味、それから、ガーナの友人宅でよく食べさせてもらった家庭の味だ。

 

バンクを練り上げる
 

ガーナ料理の中でも、私はバンクが大好きだ。バンクはトウモロコシとキャッサバの発酵生地でつくる練り粥で、特にオクラのシチューと一緒に食べると、その香りがたまらない。お腹にたまる感じもいい。ほんのりした酸味も癖になる。

バンクづくりは、コツや力はいるが複雑ではない。2種類の発酵生地を鍋に入れて水にとかし、加熱しながら練り上げ、1人分ずつ丸めれば出来上がりだ。ただ、発酵生地づくりは少し時間がかかる。トウモロコシを3日間水につけて発酵させ、製粉機にかけたものを再び水と混ぜて1日置いておく。キャッサバも皮をむいてすりおろし、布袋に入れて3〜4日置いておくのだ。時間も手間もかかるから、市場には発酵生地を専門に売るおばちゃんがいて、忙しい都市女性の味方になっている。白い発酵生地を巨大なたらいに山盛りにし、買うときはソフトボール大に丸めて小分けしてくれる。

 

人気のガーナ料理、バンクとオクラシチュー
 

ガーナには、こうした市販の食材がいくつかある。たとえばナマズの一種を発酵させたモモニという調味食材は、市販品を利用する場合がほとんどで、家庭で最初からつくることはない。発酵トウモロコシの練り粥をトウモロコシの皮に包んでゆでたケンケという料理も、屋台で買うのが基本で、家で何かつくるとしてもせいぜい、つけ合わせのソースくらいだ。

ガーナ南部では、女性も夫とは別の財布をもち、商いなどをしてよく働く。家事は誰かが手伝ってくれることもあるが、休日にまとめて洗濯をしたり、食事をまとめて作り、冷凍庫や冷蔵庫で保存したりして何とかやりくりすることも多い。だから発酵食品などの加工食材はとても便利で、すっかり食生活の一部になっている。市販品にもいろいろな面があるけれど、やっぱり、頼れる部分は素直に頼ればいいのかもしれない。

そんなことを考えながらスーパーの棚を見ていたら、急にお腹がすいてきた。とりあえずお揚げを買って、豆腐と一緒に味噌汁にしよう。高野豆腐と干し椎茸を炊いて、明日の朝は納豆に刻み葱をかけよう。そうだ、高菜漬とじゃこの炒飯もいいよね…。ガーナの主婦たちへの勝手な連帯感と、家のごはんのメニューを考える楽しさで、私の買い物かごはあっという間に一杯になった。