私たちに何ができるか(会報第5号[2007年度]巻頭言)

西 真如

数名の人間が一緒になって何かをはじめようというとき、昨日まで自分が生きてきた世の中に何かを付け加えたいという思いが、そこにはあるのだと思う。付け加えられたその何かは、それまでの世界を、ほんの少し違ったものにするだろう。

私は昨年、エチオピアのHIV感染者からの聞き取り調査を始めた。そしてある小さな町で、感染者の生活向上を目指す活動をしている女性に出会った。彼女自身もHIV感染者である。私は彼女たちが拠点にしている小さな事務所で、感染者が必要としているケアのことや、そのために県の保健局から得られる支援についての話を聞いた。最近はエチオピアの小さな町や村でも、HIV治療薬が手に入る。そして感染者は、適切な治療さえ受けていれば健康を保つことができる。それでも感染の事実を知った住民の中には、取り乱して彼女の事務所に駆け込んでくる人もいる。そういった人たちと話をしながら、自分自身が落ち込んでしまわないようにするのは、けっこう大変なことなのだと彼女は語った。

それから私たちは町にでかけて、彼女らが感染者の所得創出のために運営している、小さな雑貨屋を見せてもらった。こうした活動に熱心に取り組むことで、彼女は周囲の期待に応えてきた。ただ気になったのは、彼女の話しぶりから、いまの活動が感染者の生活を良くするという確信を、彼女自身が持てないでいるように見えたことだ。

今年の初めに、ふたたびエチオピアを訪れる機会があった。彼女は、その町の感染者と非感染者との間に、どんなことが起きているか話してくれた。例えば夫が感染者であることを妻が知ったとき、その夫婦にどんな選択肢があるのか、というようなことだ。離婚を選ぶカップルもあるが、一緒に暮らして行くことを選ぶ人たちもいるという。この話を聞きながら、彼女がほんとうは何を実現したいのか、理解できた気がした。アフリカでは、一方がHIV感染者で、他方がそうではないカップル(HIV discordant couples)が少なくないことが知られている。感染をどう予防するかとか、感染したらどんな治療が必要かといった知識を教えてくれる専門家ならたくさんいるが、しかし彼らは、感染者と非感染者が一緒に暮らすにはどうしたらよいのかということは教えてくれない。そのことを話し合える場所は、彼女の町にはまだない。

感染者と非感染者が共存できる世の中をつくることが目標なのだと、彼女自身が語ったわけではない。その代わりに彼女は、気の合った仲間と一緒に新しいグループをつくり、今までとは違う活動を始めたいのだと言った。その小さな町に、彼女たちが何を付け加えようとしているのか、町の人たちはこれから知ることになるだろう。

昨日まで自分が生きてきた世の中に、何かを付け加えたいという思いは、誰もが持ち得るものだと思う。私たちがアフリック・アフリカの活動を大切に思い続けてきたのも、そういった思いと無関係ではないだろう。付け加えたいものは何なのか、どこにゆくことが目標なのか、うまく言えないときですら、私たちの活動は、私たちが経験する世界を、少しずつ違ったものにしてきた。私たちのアフリック・アフリカに何ができるのか、それはこれからの活動をとおして示してゆかねばならないことだと思う。