王者の咆哮 (カメルーン)

安田 章人

その夜、私は川辺に造られたスポーツハンティングキャンプの従業員宿舎で寝ていた。カメルーンの北部にはサバンナが広がり、そこではライオンやゾウなどの野生動物を対象としたスポーツハンティングが行われている。調査を行っている村の人びともポーターなどとして雇用され、キャンプに住み込みで働いている。彼らの仕事ぶりを観察するために、私はそのキャンプを訪れていた。その夜は、彼らとコブ(レイヨウ類の一種)のスープを共食し、土と藁でできた宿舎で川の字になって寝ていた。

夜明け前だったか、私はふと目が覚めた。少し冷え込んでいたためかもしれない。しばらく目を開けていると、『ゴゥ…ゴゴオゥ…』という腹に響く重低音が。間近で発せられているようなその声の主は、百獣の王とも呼ばれるライオンだった。朝になり従業員とともに敷地内を歩いていると、砂地に大きな足跡を見つけた。あの声の主のものだった。足跡は2つあり、親子だった。飼育されているニワトリを狙っていたらしく、その小屋の周りをぐるぐると歩き回った跡があった。結局、頑丈な小屋に白旗を揚げて、ブッシュへと帰っていったらしい。

左にあるノートの長さは約17cm。村人の話では、気持ちがいいのか、
ライオンは砂地を歩くのを好むらしい。
 

昼にキャンプを後にし、約9km離れた調査村に帰った。そして、村人らに明け方のことを話すと、彼らも聞いていたらしい。あの王者の咆哮を。

アフリカ東部に住むソマリのことわざには、『勇者たれども、ライオンには三度驚かされる。一度は足跡に、一度は咆哮に、一度は直面して。』というものがあるという。三度目は勘弁してもらいたいものである。