紹介者:服部志帆
霊長類学者である著者は、1980年代半ばから1990年代後半にかけて断続的にカメルーン北部カラマルエ国立公園で調査を行い、未知のサルであったパタスモンキーの研究を切り拓いた人物である。近年はガーナ北部のモレ国立公園でパタスモンキーの調査を行っている。本書は、著者がカメルーンで調査を開始した1986年から1994年ごろまでの体験が主となっている。著者の研究対象であるパタスモンキーの話題は『サバンナを駆けるサル: パタスモンキーの生態と社会 (生態学ライブラリー 16)』 などに譲り、本書ではもっぱら野外調査をすすめる際の苦労や注意点などが記されている。
タイトルのなかに「トラブル」という言葉あるので、読者はトラブルばかりの旅行記かと思われるかもしれないが、面倒見の良いフィールドの先輩が調査を始める前の後輩たちに現地の状況や心構えを懇切丁寧に教えてくれる本というのが紹介者の抱いた印象である。几帳面な記録者であった著者は、1986年から1987年にかけての北部クッセリ市場における食料品や生活雑貨の現地価格を、著者の自宅のあった神戸市西区のスーパーでの価格とともに掲載しており、このような記録は、この地域の当時の物価を知るうえで重要な資料である。
ところで、紹介者は著者と同じカメルーンで2000年から人類学的調査を開始したのであるが(ただし、紹介者の調査地は東南部の熱帯雨林なのに対して著者はサバンナである)、初めて調査に行くときは、先輩たちからずいぶんいろんな話やアドバイスをしてもらった。本書に記されていた、調査許可取得やビザ延長に立ちはだかる役人たち、空港で頼んでもいないのに荷物を運んでチップを要求するポーター、ハラハラドキドキの検問、恋しい日本食、ヘビや病気の話を読みながら、先輩たちの話や自身の経験を久しぶりに思い出した。懐かしさとあわせて、よくもまあサバイブしてきたなというような気持ちにもなる。著者が本書で「調査が成功するか否かを決めるのは、むしろこの能力次第<様々な難局に対処していける能力>であるともいえる・・・」と書いているのは、おおいに共感できるところである。途上国での調査や仕事を夢見ている方はもちろんのこと、この本を手に取って現地でのイメージを膨らましてはいかがであろうか。
筆者が記した1980年代半ば1990年代半ばにかけての状況と、現在の状況を比べてみるのもおもしろそうであるが、残念ながらそれは難しそうである。現在カメルーン北部は、イスラム過激派組織の活動や武装集団による襲撃や誘拐が頻発しており、外務省によって全域が「危険レベル4:退避」に指定されている。本書でも、1993年に北部で民族間の衝突が起こったことが書かれており、このとき著者と研究仲間は現地で安全状況を確認しながら調査を遂行したようであったが、現在はとてもそれどころではなくなってしまった。この地域における政治状況の安定を祈るばかりである。
はじめに
入国審査・通関
ビザ・調査許可書
車
運転
検問
ことば
雇われ人達
食事
物価
通信手段
スリ・引ったくり
泥棒
部族間抗争
雨
気温
ゾウ
ヘビ
病気
自然災害
砂漠化
密猟
あとがき
書誌情報
出版社:新風舎
発売日:2003/04
単行本 99頁
ISBN-4: 7974-2625-X
商品ページ:https://amzn.to/4vfuPDU






